ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

スキスキ!(ss)



道端に一人の忍が座っていた。仲間はいなさそうだったけど、まわりに忍犬がうじゃうじゃいた。角都はそいつをちょっとだけ見た。賞金首かどうか確かめたんだろう。オレの方は犬を見ていた。十匹ぐらいいたんじゃないだろうか、でかいのちいさいの、白いの黒いのブチの、いろいろだ。みんな額宛をつけて、興味津々にオレたちを見たりつーんとそっぽを向いたりしていたけど、一匹だけ他と違う様子の犬がいた。胡坐をかいている忍の腿に前足をついて伸びあがり、古傷だらけの髭面を舐めている。額宛もつけておらず、オレたちにも無関心だ。みすぼらしい細い尾をブンブン振っている。ずんぐりした忍はこっちに意識を向けながらも、気のない手つきではげちょろけの茶色い背中を撫でていた。すっかり通り過ぎてから、あの犬まだ契約してねーんだろーな、と言うと角都が独り言のように、忍犬には向かんだろう、と言った。忍術を覚えるには歳を取りすぎているし、虐待を受けてきた犬はどこかで人を信じきれない、命を預けるには力不足だ。オレはそれを聞き流すことができず、ずっと頭の中で繰り返し考えていた。戦いの役に立たないものはいらないものになるんだろうか。あいつ、あんなにスキスキってしっぽ振ってたのに捨てられちまうんだろうか。黙りこくって歩いていたら、角都が今日はここで野営すると言いだして道を外れたのでオレもついて行った。まだ日も沈んでいないのに休むなんて珍しいが、多分金儲けのことでもゆっくり考えたいんだろう。水場を見つけて火を熾し、雨に当たらない寝場所も確保して、汲んできた水を飲んでいる角都を眺めているうちにオレは急にたまらなくなった。ごそごそ這い寄って相棒のコートをつかみ、何だと尋ねてくる相手の頬の縫い目に自分の頬を押しあて、角都の片手がオレの背に回るのをじっと待つ。大丈夫だ、犬よ、あの忍はお前の皮膚病だらけの背を嫌がらずに撫でていたじゃないか。信じてついてゆけ。