ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

終わりは始まり(ss)

こちらを開設してからずっとお世話になってきた暁サーチのムウ様に感謝の気持ちをこめて。



うっそうと草に埋もれた小川で鎌を洗いながら不死の男がぶつぶつこぼす。今夜は宿を取ろうぜ、そいつ金になんだろ?たまには虫にたかられずに寝てぇんだよ。聞こえないふりをしながら覆面の男が殺したばかりの賞金首の持ち物を漁り、隠しに入っていた小形の冊子を引っぱり出す。詩集らしい。ぱらぱらと手早く目を通す相棒を見て、字を読むことが苦手な不死の男が顔をしかめる。なんで人は本なんか読むんだろーな、他の動物は読まねーぞ。終わりのある物語がなければ人生は長すぎるし退屈だ、終わることは次を始めることになるからな。相棒に答えつつ覆面の男は本を自分の袖にしまい、太陽を見上げて、半年ほど前から世話になっている換金所へ行こうかと考えた。閉鎖を決めたと聞いたがこの賞金首を届けるぐらいならまだ間に合うだろう。聡明な若い女性が管理をしているのだが、彼女なら居心地の良い宿を提供してくれるかもしれない。夏至の朝、あたりには湿気が立ち籠め、蛙が鳴き、沼の水面すれすれを燕が飛び、生まれたての蚊柱が立ち、どこを見ても命があふれかえっている。同じ数だけ死もあるわけだ、と覆面の男は虫を咥えた燕が飛ぶのを見て考えた。この燕もいずれ蛇に食われるのかもしれない、不死の男ですら吸血虫から逃れられないように。しかしそんな広い考えはやってきたのと同様にさっさと消えてゆき、傍に寄ってきた相棒の胸元に散る虫さされの痕を盗み見た覆面の男の頭は、別の、もっとなまなましいことでいっぱいになった。ともあれ何かを始めるには別のものを終えなければならない。まずは金だ。この死体を無事に換金できたら宿を取り、久しぶりに酒を頼もう。あの胸に新しい痕をつけるのはそれからでいい。