ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

その一瞬を愉しめ(ss)

いつもすてきなイメージをくださる黒豆様へ。塩分トルソの二人です。詩文は「ルバイヤート」から。



常に商談を嫌う飛段が今日はご機嫌だ。単純な野郎だな、と呆れながらも角都自身非常に気持ちがいい。自然が形作った均衡をプライベートビーチなどと呼び、排他的に管理する利己主義を角都は好まないが、快適であることは確かである。あずまやで行われた打ち合わせの最中、飛段はそわそわしながらもおとなしく座っていたので、主だった話を終えた角都は褒美として席から解放してやった。土地の衣装をひるがえして水辺に走っていった飛段は犬のように砂浜をうろつき、着衣のまま岩場から飛び込み、透き通る青い水面に漂い、濡れた白い布をまとわりつかせた姿でまた犬のようにうろついた。顧客である高齢の女性はつい今しがた血なまぐさい要望をしたその口で優雅に飲み物を勧め、しょっちゅう相棒を振り返りながらはしゃぐ男に目を向けた。まるで新婚旅行中の花嫁ね。からかうのはよせ。あらあなたも相当よ、以前のあなたなら報酬の折衝中に気を散らすことなどなかったでしょうに。言い返すことができず、角都はマスクを外すと冷えたシェリー酒を口に含んだ。この国で真昼間に堂々と酒を飲むとは大した罰当たり女だ、と一矢報いてみるが、女性はニィと唇をつりあげ、しかも同性愛者と一緒なんですからね、と切り返してくる。まったく金持ちにはかなわん。降参を表明した角都と女性はともに海に目を向け、明るい日差しの下で再び乾いてきた衣に風をはらませる飛段を眺めた。海風が吹き抜ける屋根の下で、女性が古い詩を詠じてみせる。ないものにも掌の中の風があり、あるものには崩壊と不足しかない。ないかと思えば、すべてのものがあり、あるかと見れば、すべてのものがない。