ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

カタコンベ(ss)



地平線に湧いた雲が、旗を広げるようにみるみる空を覆った。草木も無くいちめん薄茶色に乾燥した荒れ地に珍しく雨が降るらしい。遠くから近づく土砂降りの気配に角都と飛段は避難場所を探し、観光資源にもならないまま打ち捨てられている地下遺跡に踏み込んだ。さして深くもない地下の廃墟はそれでも頑健で、崩れた入口からの採光が届かない奥にはねっとりとした闇がつまっていた。光と闇のはざまに腰を下ろした角都に、好奇心のまま奥へ進んだ飛段が声をかけてよこす。辛気くせーと思ったら墓場だぜここ、骨ばっかりだ。墓ならば金目の副葬品があるかもしれない、と自分も奥へ進んだ角都だったが、ただ詰め込まれたように折り重なる骨しかない空間に軽く失望する。このあたりの住民は信仰厚くとも貧しかったらしい。興味を失う相棒に飛段が話しかける。こいつら、この世の終わりに生き返るのをここでずーっとずーっと待ってるんだぜ。気の長い話だ、と角都は好まない話題を切り捨てようとした。外の激しい雨音の中へ出ていく気はないが、この行き止まりの廃墟に降りてきたことを後悔する角都に、しかし飛段は場違いな明るさで話し続ける。死のすばらしさをこいつら知らなかったんだろーな、せっかく死んでパリパリに乾いて土に戻れるのによォ、わざわざこんなところに集まってよみがえりを待ってるんだぜ、とっくに死んでるのに死んだことに気が付いてねーのかもしれねーな。説明し難い自分の不快感に頓着せず話し続ける飛段を、角都は黙らせようとする。保水力のない地表を走る大雨に閉ざされた、永永と存続する待合室で。