ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

てのひら(ss)



美しい朝だった。菫色の高い空に刷いたような白い雲が流れ、地にはどくだみの花が小さな星雲のように群生していた。遠くない小川の水音を聞きながら目覚め、その時間を愉しんでいた飛段は、隣でまだ眠っている相棒に意識を向けた。昨夜行水をしたからだろう、頭巾もマスクも取り去って眠る角都は常よりも物柔らかに見えた。飛段の方を向いた体全体はゆるやかに曲がり、顔のそばに折り縮めた右の掌が天に向いて軽く開かれている。いとしいという言葉が見つからないまま飛段は相棒を見つめ、不明な哀しさを払うために千切った花をその掌にのせてみたが、哀しみは増すばかりだったので、自分の右手を重ねて角都のいとけない部分を世界から隠そうとした。あとから、寝ている間に手なんかつなぎおってどれだけガキなんだ貴様は、とバカにされても飛段は自分の感情をうまく説明できないに違いない。掌同士に挟まれた花の意味についても。