ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

空を見よ、星を(ss)



広大な平地にせり出した山の鼻に腰を掛け、角都と飛段は議論をしていた。論点は「人はなぜ生きるか」ということだったが、非常に表層的に話し合われたため、はたからはただの喧嘩にしか聞こえなかった。各々の言い分は次の通りだ。だいたいよー死ぬために生まれるんだろ生き物は、生きてる間にガキ作ったりしてよォ、だから死ねばそれでオシマイってことでいいじゃねーか。いや死は結果でしかない、大事なのは過程でその過程を数値化するもの、つまりどのように生きたかを象徴するものが金なのだ、何も得ない生に意味などない。金なんかなくったって生きていけるぜ、大昔は金なんかなかったろ。なかったから人間が金を発明したのだ、いわば文化の証だな、野卑なお前に理解はできないだろうが。「テメー」「きさま」「バーカ」「殺す」などの不穏な言葉を多用しながら、それでも自分はたいそうなことを言っているつもりで遥か下界に足をぶらつかせる二人の不死者の上には群青の空が広がり、その明るさに潜むビロードの闇の中には無数の星があった。生も死も同じ流れで、でもそんなことはインチキな悟りなのだった。角都も飛段も他の命と同様に本能と感情に翻弄されつつ食って悩んで性交して執着して生きるしかない。生きて生きて、ぱたりと倒れるまで。