ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

あぶれ者(ss)

※第三者視点です。



大して難しくもない仕事がうまくいかず、子どものころから度胸のない死にたがりだった私は簡単に死にたくなった。台所の隅にしゃがんで包丁を握ってみたが、どこか嘘のようでそれを手放し、引っ越してきた時に業者が置き忘れていったトラロープを試すことにした。針金で束ねられていたロープをほぐし、場所を探すが、安普請の室内にはそれを掛けるところが見当たらない。仕方がないのでロープを持ってサンダルを引っかけ、いつも閑散としている夜の広場の中心、ここ数年間水が出ているのを見たことがない噴水の下品な裸女のモニュメントのところへ行ってみた。ここでの縊死が絵的におもしろいと思ったからだが、行きついてみると先客がいた。遠い街灯の灯がやっと届く暗がりに幾人もの人が立っている。不規則な音から喧嘩だと思ったが、近寄ってみるともっと物騒な状態だった。一人の黒コートの男が両手で二人の男の首を各々つかんで吊り下げ、もう一人の黒コートがそれを見物していたのである。私が足をとめたとき、首を絞めていた男が手を離し、ぶら下げていた二人の体を重い荷のように地面に落とした。おい殺さねーのかよ。命令は生け捕りだ、このまま連れて行く。なんだつまんねーなァ。世間話のように会話をしていた黒コートの二人は私の存在に無関心な様子だったが、ふと一人がこちらに注意を向けた。おい女、ロープをよこせ。音もなく近づく大きな影に私は抵抗する。だめですこれは今から使うんです。けれども男は私の手をつかみ、難なくロープを奪ってしまう。虎縄は伸びるから首吊りには向かんぞ。頭を通すために丸めてあった一端を解きながら男がそっけなく言う。へぇねーちゃん死にてぇの?ならオレの宗教に入れてやってもいいぜ。うるさい黙れ飛段、こいつらを縛るのを手伝え。そりゃテメーのバイトだろが、テメーでやれよ。貴様殺すぞ。それをオレに言うかよ角都。私をそっちのけにして二人は二人だけで会話をし、捕虜を縛り上げると、それでもロープの礼のつもりか立ち去る前に言葉を残していった。ねーちゃん自分で自分を裁けると思うなんて傲慢だぜ、裁くのはジャシン様だ、覚えとけ。死にたいなんて考える暇があったらせいぜい金でも稼ぐんだな。そうしてバカみたいな裸女のブロンズ像のそばに一人残された私は、かすかに白み始めた空の下で自分はどこまでも見放されているのだと考えた。死神さえも私を避けて通る。縊死以外の可能性を考えなければならないのかもしれない。でなければまた薄く化粧をして仕事に行くか。唐突に、私は黒コートの二人のようにどこかへ行きたいと思った。しかし自分が動かなければどこへも行けないのだった。