ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

大いなる幸運(ss)



珍しく俺は地図を読みあぐねていた。情報屋から得たその図にはつい数日前にある忍が大名からの密書を落とした(と思われる)地点が書き込まれているのだが、地図そのものが粗悪である上、目印になるような構造物はおろか木さえ生えていないため、現在地点を割り出すことすら難しいのだった。相棒も地図を覗きに来たが、等高線だらけの図面を見たとたんゲロが出そうだと言ってさっさと離れていった。それからかれこれ半時ばかり経っているが状況は変わらない。オイオイまだ探すつもりかよ、勘弁しろってェ。相棒の不平を俺は無視する。こちらとてうんざりだが、懸賞金は無碍にするには惜しいほどの額だったのである。暑さと苛立ちで頭が茹だる。今年の夏は冷夏だと聞くが、そんなことを言う奴は炎天の午後三時に禿げ山を歩くべきだろう。根性のない相棒はとうとう座りこんでしまう。正直自分もくたびれていた俺は相棒の行為にかこつけて休憩することにする。座ったからといって頭上の太陽はそのままだし、尻の下は尖った岩場だ。と、不快を押し殺してむっつりと地図を見る俺の隣で、相棒がごそごそとコートを脱ぎ、鎌を支柱として案山子のような粗末な日除けを立てた。バカなことを、と思ったのだが俺も日陰は恋しく、テメーはテメーのコートを使えとケチなことを言う相棒に身を寄せて狭いスペースに無理やり入り込む。すったもんだした揚句、相棒がこちらの股の間に座ることで落ち着いた俺たちは、その間抜けな態勢のまま休息をとることにする。未練たらしく地図を見ていると、俺の膝にもたれた相棒が、往生際がわりーぞと笑う。ずっと見ててもわかんねーんだろそれ、いい加減諦めろってェ。つべこべ言わず貴様も探すのを手伝ったらどうだと言うと、あーだめだめオレは運を使い切っちまったから、と妙なことを口にする。前によ、ずっとずっと欲しくて探してたもんをやっと見つけたことがあって、そんときにオレは思ったんだ、もうこんなラッキーは二度とねーんだろうって。しばらく考えてから、くだらん、と俺は吐き捨て、手の中の地図を細かくちぎって風にまいた。吹き飛んでいく小さな紙吹雪、お、と声を上げてそれを見送る相棒の頭とうなじと背、俺の膝にかかる重さ。奴が言っていることと俺が考えていることは違うかもしれない。けれども金と違って幸運は尽きることがなく生まれてくると俺は信じている。ほら、現に俺の目の前で、今も。