ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

やることが同じでも、細部に宿るモラルは違う(ss)



床に結跏趺坐し、経絡を順に巡らせていると、部屋に相棒が入ってきた。このようなときの常として俺は服を着ていなかった。こちらが何をしているかは一目瞭然だし、礼儀を知っている者ならすぐに出て行ったに違いない。だが飛段に礼儀を求めるのは無理というものだ。薄暗い部屋をうろつく相棒を無視して俺は経絡に集中した。目の奥から脊椎を通るチャクラに意識を傾けていると、飛段がやってきて俺のすぐ前で胡坐をかく。俺は半眼を見開きたい衝動に駆られる。こちらを真似るつもりか奴も服を脱いでいたのである。ところどころに血の色が透けた白い人体に注意を取られてチャクラを乱してしまった俺は、慌てて目を閉じ余計な情報を排除する。手太陽小腸経、足太陽膀胱経、そして足少陰腎経。ゆっくりと気を巡らせるうちに俺は集中を取り戻す。出身地のせいか、こんなときの俺の内部イメージは滝だ。頭上の高みから糸の滝が体の芯を貫いて落ちてくる。静謐な緊張は、しかし、外部から再び阻害された。小さく押し詰めた声に目を開いた俺は、ちょうど達する相棒を見てしまう。だらしなく胡坐を崩した飛段はこちらを睨むようにして自身を握っていたが、俺がその顔をまともに見た瞬間にそれが爆ぜたのだ。一瞬放心していた飛段はヒューと息をつくと手を自分の腹で拭い、あーやべ、角都てめーマジでやべーよホント、と意味不明のことをぶつぶつ言いながら立ち上がり、コートを羽織って部屋を出ていった。わけがわからないがとりあえず邪魔者は消えたので、残された俺は三たび経絡に集中しようとしたが、もう無理だった。滝はどこかへ行ってしまったらしい。仕方がないので俺はズボンをはいて部屋を出る。目的地がいかに近くの、例えば相棒の部屋であっても、俺は裸コートで外に出たりはしないのだった。