ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

想定外(ss)

「通告」の続きを読みたいと言ってくださった藤堂様へ。ご要望ありがとうございました。



確かに俺は、相棒の粗末な頭を悩ませている事柄を聞き出そうと思ってはいた。別に奴のことを案じたわけではなく、俺自身のためにそうするつもりだったのだ。静かな相棒は薄気味悪かったし、灰色の顔が日々やつれていくのも目障りで、何より夜の行為が間遠になったのが正直こたえていた。そんな利己的な理由から、案外頑固な相棒の口をどうやったら割ることができるのか俺は俺なりに考えを巡らせていたのである。なのにその相棒ときたら、まだ薄暗い野宿の朝方に眠る俺を揺り起こし、ひどく真剣な顔でしわくちゃの紙切れをこちらにつきつけながら自発的に告白を始め、俺の計画を台無しにしたのだった。こないだ滝隠れの奴が来てよ、名誉回復するからオメーに帰ってきてほしいって言ってたぜ、罪を着せて悪かったって、ホントは里長が来るべきだけど里が荒れてて来られねえって、オメーはもう抜け忍じゃねえ、里に帰ろうと思えば帰れるんだぜ角都。寝起きの俺はぼうっと紙切れを眺め、とりあえず、そうか、と答えたが、相手の思いつめた雰囲気に何か言わなければと思い、あの里は里長が変わるたびに恩赦をするのだと説明した。俺はもう三回ぐらい恩赦になってるが誰もそれを覚えていないんだろう、話がそれだけなら俺は寝るぞ、お前も寝ろ、まだ早い。…他に何が言えただろう?俺はねちっこくいやらしくお前を攻めたててヒイヒイ言わせてから白状させるつもりだったのだぞ、そしてフンつまらんことで俺を心配させおってと告げてからさらに暴虐に及ぶつもりだったのだ、とは言えないではないか。…まあいい、欲を押し隠して寝たふりをする俺の腕の中へごそごそ這いこんでくる生き物は変に痩せていてまずそうだった。食べるのは太らせてからにしよう。そう決めた俺は、まったく下らんことで心配させやがって、とこれだけは予定通りのセリフを口にし、二度寝を決め込んだのである。