ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

自由研究(ss)



ひと仕事終えて雨隠れへ戻る道中、飛段が夏休みが欲しいと言い出した。定時で働く仕事に就いているわけでなし、好きで殺しを生業としているくせに何を言っている、と角都は呆れたが、アタッシュケースに金が詰まっている今、さしあたって道を急ぐ理由もない。街ならばいざしらず、こんな山中では金も使えないだろう。好きにしろと言われた飛段は喜び、道を外れて斜面を滑り降りると川岸の獣道を辿って遊び、しまいには淵に飛び込んで両生類のように水を楽しんだ。手持無沙汰の角都が野生のイチジクやキノコを採り集め、野営の準備をしていると、やっと飛段は水から上がり、濡れた体をズボンで拭いて、うわー超だりー、とぼやきながら広げたコートの上に寝転がった。水温が低かったのだろう、蝋のような青白い体がいかにも冷たそうで、火を熾していた角都は熱くなった手を相棒の腹に置いて涼をとった。くふくふ、とイチジクを食べながら笑う飛段に、昔イチジクは媚薬と考えられていたんだぞ、と角都は教える。へー、でもイチジク食ってサカる奴なんか見たことねーぜ。成分ではなく、多分形からの連想だろう。形ってどこの、と尋ねた飛段はその場所を相棒に教えられて、ああ、うん、と頷いた。角都はそのまま指を動かし、ここは人体のラジエーターだ、と別の説明を始める。睾丸が熱を持つと精子を作れなくなる、だから体の外にぶら下がり、暑くなるとのびて放熱しやすくするんだ、わかるか。ああ、うん、と頷いた飛段はまだ冷たい太腿で角都の片手を挟み、喉を反らせた。なあ角都、けっこうイチジク、効くぜ。かすれた声で甘えられて角都は口角を上げる。やはり夏休みの子どもには世話をし知識を与える保護者が必要なのだろう。それがいかに下心を抱えた保護者であっても。