診断(parallel)
放射能にさらされるような仕事に就かれていたことはありますか。いえ、無理にお答えにならなくとも結構ですが、あなたの場合、原因疾患が特定できない限り治療は難しいと思います。ご存じでしょうが、拘束型心筋症の特効薬は今のところ開発されていないんです。臓器移植を希望されるのでしたらウェイティングリストに入れておきますよ。通常高齢の方にはお勧めしないのですが、あなたの体力でしたら充分に手術にも耐えるでしょう。国内ではなかなか機会がありませんが、国外でもよろしいなら知り合いの医者をご紹介します。無論それなりの医療費はかかりますが。ああ、そうですか。ならば今日はβブロッカーを少しお出ししましょう。はあ、確かにあれは肥大型に効果があるものですが血圧を下げる効果もありますから。え、ええ、それでもよろしいですよ、また動悸が激しくなったりしたらすぐにお出でください。はいお大事に。
待合室に戻ってきた角都はあたりを見回した。閑散としたロビーの外れにあるベンチに座る飛段は、手垢のついた雑誌を膝の上に広げたまま壁にもたれて居眠りをしていた。角都は連れを揺り起こすつもりで近寄ったが、結局そうせず、向き合ったベンチに自分も腰をおろして息を吐いた。
どこに行っても同じことだ、と角都は考える。利口者はどいつもこいつもよく似ている、喋ることまでそっくりで面白くもない。この病院に来ることはもうないだろう。高名な医者なのかもしれないが、あんなつまらないものとまた鼻をつき合わせるぐらいなら家で愚か者の寝顔を眺めている方がまだマシだ。
※お題「心音」