ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

とおり雨(parallel)



角都の留守中、オレがいつもみたいに畳の上で寝転がっていると、表が急に暗くなって天井の方からパタパタという音がしてきた。縁側から見上げると大粒の雨がまるで小石みたいに灰色の空から落ちてくる。地面に散らばっている枯葉が雨に打たれてシャラシャラ鳴る。角都んちの庭は広い、つーか木がうまいこと植わっていて隣んちが見えない。オレはなんだか神妙な気持ちになって雨の風景を眺めていた。溜まっている家賃、家族でもないのにオレの世話を焼きたがる女たち、この間バイト先で起こしてしまったいざこざ、いつでもオレの鼻先にはそういう問題がぶらさがっている。けど死ねばその全部から逃げられる、どうせなら自分の汚い部屋よりもこんな庭の藪の中で雨の音を聞きながら静かに死ねたら幸せだろう。そんなことを考えていたら、がらりと玄関を鳴らして角都が帰ってきた。濡れたコートもそのままにオレの顔を見るなり、洗濯物はどうした、と訊いてくる。そこで初めてオレはいつも裏庭に干されている洗濯物を思い出す。オレの顔を見て答を知ったんだろう、奴は部屋を突っ切って台所へ行き、そこの窓から裏庭を見た。しばらく眺めてから縁側に戻ってきてコートの水気を振るい落とし始めた角都は、洗濯物を取り込まないのかと尋ねるオレをじろりと見た。もう濡れてしまったものを取り込むためにわざわざ大雨の中に出ていく奴がいるか。んじゃオレが取ってきてやろうか。そう言ったのは純粋に親切心からだったのだが、角都はフンと言ってオレの頭に拳固を落とした。バカが、そんなことで風邪でも引いたらどうする、どうせ通り雨だ放っておけ。なのでオレは部屋に戻り、新聞を広げる角都と卓袱台を挟んで座ってバタバタいう雨の音を聞いていた。ガキの頃に洗濯物を濡らしたオレはおふくろからビンタを食らってベランダに締め出されたが風邪なんか引かなかった。オレは見た目よりもよほどしぶといんだが、角都はそれを知らないんだろう。卓袱台に肘をついてズキズキ痛む頭をさすりながらオレはまた死ぬことを考えてみたが、さっきの神妙な気持ちは戻ってこなかった。まあいい、本当に死ぬ気になればいつだって死ねるんだ。ならば何も今そのことについて考える必要もないじゃないか。



※お題「びんた と げんこ」