ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

発作(parallel)



いつもの時間に起き出した飛段は台所へ行き、朝食の準備ができていない食卓に少し茫然とした後、居間へ移動して、そこで様子のおかしい同居人を発見した。角都は畳の上に散らばった新聞紙の上に伏してもがいていたのである。当初、飛段は角都が自分にはわからない何かをしているのだと思い、しばらく見てから不意に相手が苦しんでいることに気がついた。床に膝をついて相手の顔を覗き込もうとしながら飛段は急に粘りつく舌を無理やり動かす。角都、角都よ、おい。呼吸のたびに揺れる背をさすると掌に激しい動悸が伝わってくる。こんなときのために居候している身だというのに飛段は簡単にパニックに陥ってしまう。救急車を呼ばなければ。けれども電話はない。電話のある近隣へ頼みに行かなければならない、自分が。ここまでやっと考えて片足を立てた飛段のその足首を、当の角都が払うようにつかんだ。無理に振り切ることもできず再び身をかがめる飛段に、息だけの声で、起こせ、と命じる。自分より大柄な半身を助け起こし、座椅子のようにそれを支える飛段は気が気ではない。角都、オレ救急車呼んでくるから、すぐ戻るから、な、行かせろって。角都は答えないが、背後から自分の体に回された飛段の腕をきつくつかんでかぶりを振る。角都の体力を損なうことを案じた飛段は身を離すことを諦め、波打つ胸部をゆっくりとさすり続ける。いつもきちんと身仕舞をしている角都の乱れた姿は飛段にとって衝撃的だ。はだけた浴衣をできるだけきちんと合わせて傷跡だらけの体を覆おうとする飛段の腕の中で、角都は仰のき、相手の肩に頭を預けてかすれた声を絞り出す。しぬなら、ここで。飛段はただ恐ろしく、おろおろと自分の温かい腕で角都の体を抱きながら、死ぬな死ぬな死ぬな、と狂ったようにそればかり念じている。ずっと己の死をだらしなく願ってきた自分がそれを口に出すことは許されないような気がして。



※お題「口では言わないが」