ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

壮大な議論(parallel)



昨夜の薄雲をまとう名月も風情があったが、満月を迎えた今夜の月は夜空の穴のようにくっきりと浮かび、模様もよく見える。照明を落とした縁側で月を愛でていると、隣に座って足をぶらつかせていた若造が、飛行機だぜ、と言った。なるほどチカチカと点滅する衝突防止灯が夜空を横切っていく。パイロットも大変だなあ、すっげー眩しいだろうによ。若造の言葉を何気なく聞き流そうとした俺は、少しまごついて聞き返す。眩しい、だと。だってそーだろーが、あんなに近くを飛んでんだから。若造が指差すのは煌々と照り映える満月だ。バカ、月はずっと遠くにあるのだ、眩しいわけがないだろうが、と言うと、だってここよりゃずーっと上飛んでんだぜ、ぜってー眩しいって、と言い返してくる。そして、月を横切るようにして飛んでゆく飛行機を見やり、あー通り過ぎた、もう大丈夫だな、とひとりごとを言う。論じるのがアホらしいほどの初級天文学について、明らかに正しい俺の意見を若造はどうしても受け入れようとしない。では太陽はどうだ、とヤケになった俺は問う。あれこそ明るいぞ、しかも熱い、飛行機など到底飛べやしないだろう。若造は哀れなものを見る目つきを俺に向ける。サングラスをするに決まってるだろ、んで冷房ガンガンかけるんだよ、当たり前じゃねーか。もういいバカとは議論できん。バカはテメーだっつーの。こうして384,400kmのかなたからの光を浴びつつ俺たちの夜は更けていく。



※お題「飛行機」