ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

たゆたう(ss)

ss「手のかかる男」の続きです。「こたつでミカンな角飛」の「指先に残っていたみかんの香」をリクエストしてくださったさくま様へ。いつもありがとうございます。



狭いプラスチックの棺桶みたいな湯船にゆっくりとしゃがむと手足がジリジリ痛くなった。そんなに熱くないのにやっぱり真水の湯はこたえる、温泉ならもっと当たりが柔らかいだろう。そんなことを考えながらオレは凍えてかたくなった足を伸ばした。角都に言ったら贅沢言うなと殴られるかもしれない。実際今日中にここまで辿りつけて、しかもメシと宿にもありつけるなんて上出来だ。久しぶりに洗った髪が目の前にうるさく垂れてくるがそれを払うのも億劫で、オレはそのままぼんやりとカビの生えたシャワーカーテンを眺めていた。ふと気がつくと、いつの間にかカーテンが寄せられていて湯船の脇に角都が膝をついている。ふろでねむるな、おぼれるぞ。低い声が聞こえるが意味がわからず、オレはただ角都の方を見ていた。目の前に伸びてきた大きな手が垂れた前髪をかきあげるので、そのしっかりとした手をつかまえて頬を押し当てる。ミカンの匂いがするぜと言うつもりだったのにオレの口は何か別のことを言っているらしい。こんなせまいところにふたりではいれるか、ばかが、と答えて身を起こした角都は、しばらく突っ立ったままオレを見下ろしていたが、急に服を脱ぎ捨てると、長い手足を折り曲げるようにして湯船に入ってきた。湯があふれ、プラスチックがオレたちの肌とせめぎ合ってギュウギュウと鳴る。狭さを解決しようと相手に重なったオレは、角都の首に腕を巻き、角都のへそに自分のへそを合わせて目を閉じる。かすかに柑橘が香る人工の湯の中で。