ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ドナドナの気持ち(ss)

「果報者」の飛段バージョンを読みたいと言ってくださったさくま様へ。リクエストをありがとうございました^^。



兄さん兄さんDVDあるよDVDすっごいおもしろいよ。小声で繰り返しながらつきまとう男をオレは無視しようと努める。別に殺してもいいんだがそれで腕の立つ忍の警官なんかに絡まれたら時間を食ってしまう。最近続けざまに待ち合わせに遅れたオレはこの間相棒にこっぴどく怒られ、取り逃がした賞金首の代わりに貴様を売り飛ばしてやると凄まれた。もちろん売られはしなかったけど内心ちょっとびびった。殺してやる、という台詞にはないリアリティがそこにはあったから。角都のことだ、金とオレとを天秤にかけたら迷いなく金を取るだろう。だから今日こそ先に着いて相棒を見返してやるんだと意気込むオレと目的地の間にいろんな障害物が横たわる。足元のゲロ、前も見ずに走ってくるアカデミー帰りのガキども、いい匂いの湯気が立つ肉まん屋、体をウネウネさせながらティッシュを配る女。それらすべてをクリアして待ち合わせ場所の茶店に着いたオレはまず時間を確かめ、まだ余裕があることを確かめてから悠々と縁台に腰をかける。よっしゃオレの勝ちだ、奴が来たら遅い遅いとなじってやるんだ!胸をわくわくさせながらオレは相棒を待ち受けたが、予定時間になっても奴は現れない。次第にオレの腹の中に冷たい不安が湧いてくる。指定は確かにこの店だった、間違いない。と思う。が。もし間違えていたらヤバイ、いや、間違えていない方がもっとヤバイ。だって角都が遅れるってことは奴に何かあったってことになる。でなけりゃ奴がもうオレを見捨てて売り飛ばしたのかもしれない、だってそうすると言っていたんだから。心細くなってきたのを押し隠し、眉をひそめてそれでも道の向こうを見ていたオレは、不意に思いがけない方向から馴染みの声に呼ばれて一瞬硬直し、ゆっくりと弛緩する。もし不安に色がついていたならば、オレの背から青黒い煙がどっと立ち上るのがみんなに見えたに違いない。