ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

器としての用法(ss)

さくま様からのリク「料理」による小話です。料理、からちょっと外れましたが^^;



混雑した食堂で豚しゃぶの上にこんもりと盛りつけられている白髪ねぎを眺めた角都は、ふと顔を上げて真向かいに座る相棒に目をあてた。口のまわりを汚して焼肉定食をがつがつと食べている飛段はいかにもがさつであり、角都は再び自分の膳に向き合ったのだが、酢の物のきゅうりと混ぜられた針生姜にモズクがとろりとかかっているのを見て、また少し落ち着きを失った。汁椀の中を泳ぐとろろ昆布は目を閉じてぐっと一息に飲み込んだ。食った食ったと満足げな飛段と対照的に、角都は眉を寄せて勘定を済ませると、少し逡巡した後に酒を一瓶買い求めたのである。ここまでが過去の話だ。そして今、安宿に連れ込まれた飛段は性急に自分の服を脱がそうとする相棒の動きに形だけ抗いながら薄ら笑いを浮かべている。おいおい角都、オレどこにも行かねーしまだ宵の口だぜ、そんなにがっつくなって。その余裕の笑みは、しかし、壁際に正座するよう指示されたときに少し目減りする。いいから言うとおりにしろと強要され、不承不承全裸で正座した飛段は、相対した角都にぐっと膝を持ち上げられて慌てて背後の壁に腕をつく。おいこらテメーとわめく相棒をよそに、角都は酒瓶の栓を歯で引き抜き、中身を飛段の股間に注ぐ。そうか女と違って男の場合は容量が少ないのだな。淡々と事実を述べて、酒が満たされた鼠蹊部に顔を埋め、ジュッジュッとそれを啜る角都を飛段は奇異なものを見る目で眺める。なにしてんの、と尋ねる声が上ずるのは、角都の鼻や唇がときおり器を掠めるからである。わかめ酒だ、とあっさり答えた角都はいったん飲み干した器を吟味して酒をつぎ足し、また顔を埋める。お前の毛は色も量も薄いからわかめという風情に欠けるぞ。勝手な感想を述べつつ、それでも酒を啜ることをやめない角都に飛段が訴える。ならテメーの股でやれよ、そしたらもっとわかめっぽいだろ、オレが飲んでやるからよォ。ぎっちりとつかまれた膝を崩すことができず、上体をよじり胸を反らせながらの提案を角都は、よくもそんなふざけたことを考えつくな変態め、と一蹴する。お前がおかしなことを言うから気分が悪くなったぞ、飲み直すからもう少し付き合え。不自由な態勢のまま背後の壁と角都に挟まれて身動きが取れない飛段は思いつく限りの罵詈雑言を吐き、片手で相棒の髪をつかんで股間から引き離そうとするが、そのたびに敏感な部分に吸いつかれて力を失ってしまう。悪態が不明瞭になり、やがて別のものに変化してくると、角都は空になった酒瓶をわきに転がして代わりに相棒の顎をつかみ、口に含んだ液体を相手の口に移してやる。少し不純物が入っているが悪くない味だろう、さてそろそろ夜食に移るか、飛段。おとなしく項垂れているのを肯定と受け取り、角都は器を舐め上げるとそれを二つに割る。飛段の言うとおり、まだ宵の口だった。