ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

倒錯する主従(ss)

「番狂わせ」の続きを望んで下さったさくま様へ。リクの「接吻」と合わせて。



宿場を通るか野に行くか迷ったあげく、俺は野を選んだ。じっと背負われている飛段の不調は薬物によるものだろうが、屋根の下で休んだところで回復が早まるわけではないし、ならば金のかからないやり方を選ぶのが俺らしいと思われた。それにどんなに忍んでも宿場には人目がある。正直言って、こんな状態の飛段を誰かに見られるのは己の弱点をさらすようでどうにも不快だった。小さな窪地を野営地に決めて相棒をおろした俺は、薪を集めて火をおこすと、背から出した心臓四体で飛段を囲んでコートを脱がせ、胸部から末端にかけて揉みさすり血行を促した。心臓のひとつに腰をおろし、くすぐってぇよ、と笑う飛段はそれなりに元気そうに見えたが、その手足は鉛色に冷たく固まっていて、俺は下僕のように時間をかけて根気よくそれらを揉んだ。肩から指先、太腿からくるぶしまで撫でさすり、最後に蝋のような足を両手で包んで温めようとしていたとき、まったく血の通う気配がないことに苛立った俺は、衝動的にマスクをおろすとその足指を口に含んだ。ちらちらと揺らめく焚火の明るみの中、足の持ち主が暖かい壁にもたれて眠っているのを上目遣いに確認し、普段は接吻できない場所にゆっくりと舌を這わせて歪んだ喜びに浸りながら、それでも俺は相棒の回復を待ち望む。早く良くなるがいい飛段、そして俺の無欲の務めに対し、まっとうな口づけで報いたまえ。