ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

つい習慣で(ss)

こあん様からいただいたリク「相方がいない日」の小話です。角都視点で。こあん様、いつもありがとうございます。



たまたま大きな祭の日にぶつかったらしく、その街は人であふれかえり、裏道を選んで歩いても喧騒から逃れることはできなかった。わざとですよ、と情報屋は屈託なく笑った。ここは閉鎖的でしてね、なんでもない日によそ者が来ればしばらく噂になるような土地柄です、まあ厄介ですけれどもその噂も儲けの種になりますからね、利点もあるんですよ。俺は人込みに揉まれて埃っぽくなったコートを叩きながら、貴様のそんな都合のせいでとんだ目にあったぞ、と文句を言い、古びた籐製の長椅子に腰を下ろした。白ちゃけた椅子は俺の尻の下で苦しげに軋み、たわんで、脚をぐらつかせた。もう少しマシな椅子を買ったらどうだ。客に背を向けて茶を煎じていた情報屋は俺の言葉に振り向くと、そんなに片寄って座るからですよ、と答えた。なんで右側を開けるんですか、真ん中に座ればいいでしょう。情報屋が怪訝そうにこちらを見るので俺はできるだけさりげなくアタッシュケースを右隣に置き、そもそもそのために場所を空けておいたのだというへたくそなアピールをしなければならなかった。商談前に動揺を見せてしまうとは俺も堕落したものだ、内心どんなに別のことに気を取られていたにせよ。忍はどのような状況においても感情を表に出すべからず、とはアカデミー生でも知っている心得だと言うのに。