ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

嘘つきで破廉恥で厚顔無恥で(ss)



戦闘が終わって血まみれになった飛段は、先を歩いていく角都を追いかけようとして転び、そのまま起き上がらなかった。ぐずぐずするなと急かしても動こうとしないので、イライラと戻っていった角都は、そこで初めて相棒がチャクラ切れを起こしていることに気がついた。お前、そもそもチャクラなど持っていたのか。本気で意外そうな角都の声に、倒れたままの飛段が、うるせえ、と答える。オレを何だと思ってんだ忍者だぞ、チャクラぐらい、チャクラぐらい。そのまま静かになってしまった相棒を角都は仕方なく抱え起こして運んだが、宿場街に着く前に日が暮れてしまったので野営を張ることにした。火は熾したもののまばらな雑木は防風にならず、霜の降りる冷気の中で角都は相棒の隣に寄り添い温もりを保とうとした。寒い、と文句を言う相手ならば放っておけるのに、と角都は考えた。何も言わずに横たわられると不思議に落ち着かないものだ、どうせこいつは死なないというのに。自分の背がしんしんと冷え、相棒の背もさぞかしと考えた角都は、ふと思いついて水分身の術を使い、もう一人の自分を相棒の背側に配置したが、それがごく自然な態度でコートの前を開き、その中に飛段を包むように抱きこむのを見てムッとした。おい、何をしている。意図したよりも尖った声が角都の喉から飛び出してくる。分身は飛段の頭越しに本体を見やり、のうのうと(と角都には見えた)飛段を抱きながら言い返す。温めてやっているだけだ、こいつのコートは血を吸ってごわごわだからな、まったく貴様は労わりの心が足りん。余計な世話だ、貴様は風除けに徹してそこに寝てればいい、手を出すな。角都は分身の腕を飛段から引き剥がすと自分のコートの中に改めて相棒をくるみこみ、中身が粗末なわりに重い頭も自分の腕に載せて一人占めした。あれに任せておいたら何か悪さでもしかねないからな、と眉間にしわを寄せて分身を睨みつける。分身は特に文句を言うでもなく再度飛段の背に寄り添い、角都のコートの上に自分のコートの前身頃を重ねてきた。理にかなっている、と角都はしぶしぶ認める。そのようにした方が飛段の体温は守られる。気に入らないのは分身が袖に腕を通していないことだ。見えない場所で何か良からぬことをしているのではなかろうかと、相手側に向いている飛段の背を盛んに気にする角都に分身が嘲りまじりの声をかけてくる。大層な執心ぶりだな、滑稽な奴だ、誰もが貴様と同じ嗜好を持っているとでも思っているのか?少なくとも俺はこんな野郎よりも女が好きだぞ、華奢で柔らかくていい匂いのする女がな。角都は答えず、後頭部に手を添えて飛段の頭を引き寄せるとその額に自分の顎を当て、すぐその向こうにある自分そっくりの顔に目を据える。表情の読めない顔だ、と角都は考える。これを信用しても良いものかどうか。だが正直角都も疲弊しており、飛段の重たい体温から伝わる睡魔に抗うのが辛くなってきていた。垂れさがる瞼を必死に吊り上げる角都に打って変わって感じの良い声で分身がささやく。心配するな、俺はどんなに溜まっていてもひとの寝込みを襲うような卑怯なまねはしない、俺を誰だと思っているんだ貴様の分身だぞ、少しは信用しろ、ごつごつした野郎に手を出すなんてあり得ん、それがどんなにいい尻をしていたにしても…。妙に気になる言葉尻に意識を残しながらも寝入ってしまった角都は、翌朝目覚めるとまず分身を消し、そしてすぐにそれを後悔した。ぱしゃりと分身が消えたとたん、馴染みだが自分の記憶にはない感覚が体中に湧いてきたからである。自分が熟睡している間に分身はいろいろなことをしたらしかった。角都は生々しい感触が残る手指を忌々しげにズボンで拭い、消すのなら殴ってから消すのだった、と呟いた。己を殴る行為に等しいことはわかっているが悔しすぎる。あのような嘘を並べ立て、不潔な行為に耽るとはなんという破廉恥な奴だろう。こいつもこいつだ、チャクラ切れだか知らんが体中を触られても気づかず暢気に寝てやがるとは忍者のクズめ、こいつがこんな無防備だからあんな厚顔無恥の輩に好きなようにされてしまうに違いない。元々の原因が自身にあることを棚に上げて一人怒りを募らせた角都はそれを理由に分身ですら遠慮した飛段の後ろに手を伸ばし、自分で並べ上げた己の悪徳に「責任転嫁」「助平」「嗜虐性」を付け加えるのである。



※さくま様からのリク「嘘八丁」