ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

飛び立っても飛び立っても、同じ場所に舞い戻ってくる(ss)



角都がイラついている。でかい声でブツフツ言うからみんなどこかに行っちまった。珍しくアジトに揃っていたみんなでしゃべったりバカにしあったり楽しくやっていたのに台無しだ。オレは角都の相棒だから最後まで我慢した。まったくどいつもこいつも、と角都が唸る。金が天から降ってくるとでも思っているのか、無駄遣いばかりしおってバチあたりどもめ、何だこの領収書はタラバガニだと、カニ風味の蒲鉾で充分だろうに、今度奴の口を縫いふさいでやる、どうせエラ呼吸なのだろう。オレは角都の真ん前に座って帳簿と積まれたレシート越しに相棒の顔を見ていたが、奴がいっぺんだってこっちを見やしないのでつまらなくなり席を立った。部屋を出ていくオレの後ろで角都がブツブツ言い続ける。くそ計算が合わん、なぜ領収書を取っておくぐらいのことができないのだ、財布を任されている者の苦労がわからんのか、金は放っておけばすぐに飛んで行ってしまうというのに。自分の部屋に戻ったオレはベッドに転がり、いろいろ考えた。想像の世界でオレは一人で行動し、誰にも咎められることなく存分に儀式をして、強敵に会えば知恵を尽くして戦い勝利をおさめた。金という不純なものは存在しない世界にオレは酔った。悪くない、全然悪くない、しかもこれは実現可能なのだ、暁から足を洗ってまた一人に戻りさえすれば。すっかり高揚したオレは架空の世界の高みからシモジモを見下ろし、あくせくしている奴らをせせら笑った。無神論者ども、テメーらみんな殺戮してやる!皆殺しだ!ゲハハハハァ!見ててくださいよォジャシン様ァ!累々たる死体に覆われた理想の世界を思い描いてうっとりしていたオレは、角都のことを考えてちょっと我に返った。皆殺しと言ったがあいつを殺すのは骨が折れそうだ、下手をしたら返り討ちにあって生け捕られ、見世物小屋かなんかに売り飛ばされるかもしれない。小さな檻に入れられて腐った野菜を餌に与えられ自殺もできない自分を考えたら、大きく膨らんでいた想像の世界がプシューとしぼんできた。やっぱり角都を敵に回すべきじゃない。味方にしておけば首がもげたときにも縫いつけてもらえるし、落とした額宛を拾ってもらえるし、他にもいろいろしてくれるだろう。理想の世界を心の中にしまって顔をゴシゴシこすると、オレはまた共同スペースへ戻っていった。こっちが想像の世界で大活躍してきたというのに角都は相変わらず帳簿に頭を突っ込んでいる。よほど煮詰まっているのか眉間がしわだらけだ。オレは片脚を上げて机と角都の間に割り込み、尻で机を押しやりながら奴の膝に馬乗りになった。眉間のしわを両手の親指で伸ばしてやりながら、放っておくと飛んでっちまうのは金だけじゃないぜ、しっかりつかまえとけよ相棒、と言ってやる。オレの含蓄のあるセリフが理解できなかったのか、すっげー怪訝そうな顔をしながらも角都は怒り出さなかった。大事な金勘定を邪魔してやったんだから一発二発くるかと思ったんだが。それともただひどく疲れていたのかもしれない。まあ奴が帳簿じゃなくてこっちを見てるんならどっちでもいいんだ、理由なんか。



※さくま様からのリク「羽」