ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

現金主義(ss)

こあん様のリク「念には念を」による小話です。石橋を叩いて渡る話ではなくなってしまいました^^;そちらはまた後日、書かせていただきます。こあん様、楽しいリクをありがとうございました。



情報屋を訪ねた帰り道、効きすぎた暖房にのぼせていた俺は闇夜をいいことに頭巾とマスクを取って素顔をさらし、火照った顔に当たる小雨の冷たさを楽しんだ。振舞われた酒は少量だったが足元がふわつくところを見ると強いものだったのかもしれない。疲労でだるい体を気持ちよく冷やしながら宿に戻った俺を見て、飛段は渋面を作った。この冷えてんのに何やってんだよテメーそんな濡れたもん脱いで早く寝ろ。いやこれはだな暖房が暑くて、という説明を聞きもせず、飛段は宿の薄べったい布団を雑に敷くとこちらの濡れたコートを引き剥ぎ、酔ってくたびれている俺を布団の上に突き転ばした。乱暴な野郎だ。俺はムッとしたが、起き上がるのも面倒なのでそのままごろりと横たわり、冷たく重い掛け布団をかぶせてくる相棒を見上げていた。飛段は宿の浴衣を着ていた。髪が濡れており、暖かい良い匂いがする。本人に言ったことはないが、くつろいでいるときの飛段はいつも良い匂いをさせていて、俺はそれを偏愛していた。無造作に布団を整えた後、すい、と離れていく匂いと体温を惜しみ、もう風呂に入ったのか、とどうでもいいことを口にしてみる。ああテメーとじっくり楽しむつもりで隅々まで洗ったんだが無駄になっちまったな。飛段は立ったまま腰を曲げて髪が貼りついている俺の額を指先で小突くと、すぐそばにあった傷だらけの粗末な卓袱台にのしりと腰を下ろした。寸の足りないぺらぺらの浴衣の前が開き、太腿の上の方まで丸見えになる。下着をつけていないので床からそれを仰ぎ見るのはなかなかの壮観だ。貴様、そんな格好で表に出るんじゃないぞ。つい漏れた本音に飛段がハァ?と応じる。出てぇときにはいつでも出てくぜ、テメーの指図は受けねーよ。つけつけと答えた飛段はわざとらしく更に股を開き、奥を見せびらかした。テメーはツラをさらしてそのへん歩き回っておいて、ひとには表に出るなっつーのは虫がよすぎやしねーか、あぁ?伸ばされた爪先が布団越しに俺の腹を軽く蹴るが、こちらがそれをつかもうとするとさっと逃げてしまう。反応鈍いぜ角都よ、と飛段が嘲笑う。まったく自業自得ってやつだぜ、調子が悪いんだから忠告を聞いておとなしく寝てりゃ今ごろオレといいことができたのにな。俺は酔っているだけだ、病人扱いするな。ケチな酒で酔いつぶれるタマかよテメーが。腹を蹴る爪先が別の場所を蹴り始める。俺は相変わらずそれをつかまえることができないままだが、それでも言うべきことは言わなければならない。何にせよお前が外に出ていかなければそれでいいんだ。出るときゃ出るっつってんだろ、まあテメーが自分の愚かな行いを悔いて、飛段様いつまでもお側にいますからどうかどうかお外に出ないでくださいませって頼むんだったら聞いてやってもいいけどよ。どうでも好きに考えろ、とにかくそんな格好で表に出たら殺すぞ。それをオレに言うかよーと騒ぐ相棒の足をやっとつかまえた俺は、その骨ばったくるぶしをしっかり握って本体をたぐり寄せることに成功する。これでよし。口約束も契約のうちだが、やはり現物が手元にない状態で取引が完了したと考えるのは早計だ。俺は今までこうやって生きてきたのである。