ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

また会える(Crane)

ブログを始める前から憧れて足しげく通わせていただいている「Shuuura」のゆに様から、私の大好きなお話をいただきました。
ここにお出でになる角飛好きの方ならもうご存じでしょうが、ゆに様の角飛は男らしくて破滅的で色っぽくて、それを表現なさる文体も鋭く切れが良くて実にすばらしいのです。
ゆに様、すてきなプレゼントをありがとうございました。本当に、ありがとうございました。





また会える


それまで角都も飛段も、お互いを好ましく思っていなかった。
角都にとって飛段の取り柄は攻撃力の高いあの儀式くらいなもので、飛段にとって角都はただ口うるさいだけで無愛想な男だった。
しかしどちらも死なない体を持っていた。それはどちらにとっても大変都合のいいもので、特に飛段のほうはその二人の数奇な能力を誇示するためにか好んで「不死コンビ」という言葉を使った。そして飛段がその言葉を使う度に二人は当然のようにあの連携を使い敵を圧倒するのであった。まさに二人は百戦錬磨なのである。

ある日、戦闘の後、角都はそれを聞いた。
「お前はどうやったら死ぬんだ?」
飛段は例のごとく連携を用いたためばらばらになった四肢を角都に縫い合わせてもらいながら面倒臭そうにいいから早く繋げよォと悪態をついた。
「・・・いくらお前でも必ず殺害方法があるはずだ、いやなければならない・・・」
角都が存外真剣な目をしているのを見て、飛段はやっとホントに聞いてんのかと尋ねた。角都は返事の代わりに言った。
「そうでなければ自然の摂理に反するだろう」
「・・・はぁ・・・?」
飛段は気の抜けた声を出したが呆れたわけではない。素直に意味がわからなかったのだ。
「なに、その・・・せつりって・・・」
「・・・本当にお前は・・・。いや、いい。聞いた俺が馬鹿だった」
「おい、せつりってなんだ、教えろよォ!あ、いたたた、いてーんだよクソヤロー!」
いい加減その無知さに嫌気がさした角都は乱暴に縫合し、その会話はそこで止まった。

別の日、これもまた戦闘の後、今度は飛段から聞いた。
「お前がこの間言ってたあのせつりがどうとかってやつゥー・・・」
「なんだ覚えていたのか」
この日はさほど傷つかずに済んだ飛段はいつにもまして饒舌だった。角都は縫合する手を止めずに適当に相槌をすることにした。飛段の殺害方法を聞いた角都には飛段の自然の摂理の解釈などどうでもよかったのだ。
「よーするによォ、生まれたり死んだり、食われたり食ったりするってことだろォ?」
「・・・当たらずとも遠からず、といったところだな」
「あー、おめーいちいちくどいんだよ!ったく、めんどくせー奴」
「黙れ飛段、殺すぞ」
「はぁい、はい・・・。・・・でもよー・・・」
飛段はそこで一旦口を噤み、上体を起こして角都の顔を下から覗き込んだ。
「なんでお前がそんなの気にするわけ?お前だって充分せつりから外れてるのによォー!」
飛段は上機嫌にまくし立てると、揚げ足をとったつもりなのだろう、あの下品な笑いと共に角都の背中をばしばしと叩いた。お前っていうかオレらってほんっとバケモノだよなぁと笑いながら言った。角都はやめろと制止して、ずっと言っていなかったことを告げた。
「俺は死ぬぞ」
飛段は笑うのを止めた。
「心臓を全部潰せば死ぬ、俺はな。しかしお前はたった一つしかない心臓を潰しても死なない。俺はお前に、お前の殺し方を聞いたんだ」
「・・・お前、死ぬ、の・・・?」
当然だ、と触手の余りを切りながら角都は言った。
「だってお前、死なないって言ったじゃん・・・」
「普通の方法では死なないと言ったんだ、死なない生き物などいない」
「だって・・・」
「考えてもみろ、そう簡単に不死の人間がいてはそれこそ摂理などと言ってられないだろう」
飛段は急に黙った。角都に繋げてもらった自分の左の太ももとその横の途切れた右足の太ももを見下ろした。角都は構わずに右足の縫合を始めた。
「一体お前はどうすれば・・・、飛段?」
黙り込んだ飛段を見るとちょうどそのとき飛段の頬から伝い落ちたそれが地面に落ちた。乾いた土はすぐにそれを吸収した。今度は角都が飛段を覗き込んだ。飛段のマゼンタの瞳には水の膜が張られていた。
「お前・・・」
「っるせー、こっち見んな!」
暴れた拍子に続けざまに幾筋かが再び地に零れ落ちた。
その時初めて二人は相手のことを自分がどう思っているのか気づいた。

これはそれから大分経った日のことである。この日は角都から聞いた。
その日は久々に雨でもないのに宿を取っていた。角都は帳簿に筆を滑らせながら、布団でごろごろ暇を持て余す飛段に聞いた。
「飛段、あの話を覚えているか?・・・お前の殺し方の話だ、自然の摂理のことも言ったな」
「あぁーそれェ?もうやめにしねー?なんか湿っぽくなるしよォー」
ちらりと見やって猫のような体勢をしている飛段が「湿っぽく」なるとどうなるか思い出し角都はため息をついた。
「そうだな、まためそめそされても困る」
「うるっせー!早くしろよ、クソジジイ!」
年寄りは古い話好きで困るぜと話題を逸らそうとする飛段に拳を飛ばし、そういえば焦らしながら強要すればこいつは何でも吐くんだったなとぼんやり考えた。

あの日、飛段が初めて涙を見せた日、あの後、飛段は角都に抱きついて泣きながら言った。オレは死なない、オレはずっと生きれる、お前もそうだと思ってたからお前を誘ったんだ、と。角都はそんな飛段の頭を見ながらどう返事をすればいいのか迷っていた。ふと自分が口にした摂理の言葉を思い出した。飛段の頭についた土を払いながら、言った。お前はいつか必ず俺が殺してやる、と。

今でも角都は飛段がいつか死ぬものだと信じている。だからきっと、あの約束が果たせずとも、めぐりめぐる中でまた会えるだろう、と角都はその最期まで信じ続けた。