ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

二十六日・ボクシングデー(ss)



角都がオレを呼ぶ声が濁っていて、いだん、と聞こえる。オレは顔をそむけて酒臭い息から逃れようとするが失敗する。くせーよテメーあっち行けよ。奴の頬に手をかけて押しやるが、ぐにゃりと押しのけられた頭は同じぐらい柔軟な動きで元の場所、つまりオレの喉元に戻ってくる。うわーこいつマジ酔ってるオレこのままやられちゃうんじゃね、と半分慌て半分期待しているうちに、角都はしなだれるようにオレを飲み屋の狭い座敷に押し倒し、重たくのしかかってきた。店の中はクリスマスとは縁遠そうな連中でごった返していて何人かはこっちを面白そうに眺めている。やるのはいいけどいつらに娯楽を提供するのはいやだなと思っていたら、入口の引戸ががらりと鳴って男の二人組が入ってきた。どっちも角都のように目だけを出して顔を隠し、手に派手な青竜刀を持っている。忍くずれのようだ。一人が怒鳴る。よし、どいつもこいつも動くんじゃねー、命が惜しかったらじっとしてろい。命なんか惜しくないが角都が重くてオレは動けない。奴のぬるぬるした舌がオレの首を這い、耳元までゆっくりと舐めていく。つまり角都は動いているんだが、二人組はそれには構わず、数人の客に目をつけて金とか時計とか指輪とかを巻き上げている。耳元で角都が息だけで笑う。見ろ、動くなと言われて従う奴らだけを狙っているだろう、おもしろい、所有する者は失うことを恐れるのだな。二人組は強盗したものをポケットに入れると何も言わずに店から出て行った。店員が走り出て行ったが、あとを追ったのではなく警察への通報だろう。と、酔っていたはずの角都がさっと身を起こし、手早く勘定を済ませて足早に表へ出た。慌ててオレも続く。角都は店の前で闇を睨むと、こっちだ、と言って走りだす。もちろんオレも続く。おいおい角都、どこ行くんだよォ?バカかお前は、と角都が返す。奴らから金を奪うに決まっているだろう、イベントの後の夜だ、きっとたんまり盗んだに違いないぞ、警察に捕まる前にやらんと手遅れになる。機敏な身のこなしを見ると、どうやら酔っているように見えたのは演技だったらしい。置いて行かれそうになりながらそれについて文句を言うオレを角都がぴしゃりとさえぎる。つまらんことでごねるな、続きは後でしてやる、奴らをシめたらその場ででもな。けっアオカンかよ好きものジジイが。言い返しながらオレも勢いを取り戻した脚で地面を蹴る。そこまで行かなければ望みのものが手に入らないんなら行くだけのことだ。それに犯罪も他のことも人目につかない所でやるに越したことはない。