ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

弱さを露呈する(ss)

※角都の過去を捏造しています。角飛ではありません。



 仲間の救援に向かう夢を見ていた。昔よく見た夢だ。枝渡りの最中、前方の大木にトラップがあることを察知した俺は小隊長として後方に伝える。応答はないが皆仕掛けを回避して進み続ける。いつもどおりだ、と夢の中の俺もそれを眺める俺も考える。若くして抜擢された俺は皆に疎まれていた。妬みだと俺は思っていたが多分それだけではなかったのだろう、彼らは俺が上官としての器ではないことを知っていたのだ。才能に恵まれているが協調性のない無愛想な若造、それが俺だった。忍獣すら俺を避けた。
 夢の中の俺は進む速度を上げた。救援を求めてきた国境警備隊は抜け忍の集団と接触したのだった。俺は七十五年経った今でもその時の救援要請の文面を思い出すことができる。「座標七の七にて交戦中 死亡者四 重傷者四 敵数不明」こんなどうでもいい要請文を文字の乱れや書き損じも含めて覚えているのはその書き手が俺の知る者だったからだ。実直だが平凡な忍だったその男は酔狂なことに嫌われ者の俺を気にかけ、庇おうとすることすらあったが、孤独が当たり前だった俺は徹底して無視した。無能な者に関わることが自分を利するとは到底思えなかった。
 この夢の結末はわかっている。地点に到達した俺たちが見つけたのは壊滅した小隊十六人分の死骸だった。対戦相手は既に姿を消していた。俺たちは術の痕跡から相手集団を割り出して討伐に向かい、皆殺しにすると、味方の死骸を回収し、里に戻った。これが現実に起きたことであり、夢も大体そのあたりで終わる。
 今、夢の中の俺は死体を回収しているところだ。一人でも欠けていればその者に抜け忍の疑いがかかるので、俺は部下に指示をしてバラバラになってる体の部品もすべて集めさせた。疲労している部下が白い目で俺を見る。だが物事は命令通りに行われなければならない。
 ちぎれた首なしの上半身が俺の前に運ばれてくる。これの主がわからないと部下が言う。そうだろう、あの男は存在感が薄かった。いてもいなくてもわからないような男だった。俺は無表情にその死体の名を特定し、部下に運搬させた、はずだった。
 これは夢なのだ、と不意に俺は考える。かつての記憶を俺の脳が再現しているだけで、他の誰もそれを知ることはない。ならばその内容を多少変えても良いのではないか。あの時の俺が口にできなかったことを、今この場で吐き出すぐらいのことなら。
 夢の中の俺が地面に膝をつき、ずたずたに損なわれた人体に手を触れる。動きがぎこちない。今まで繰り返されてきた筋書きに変更が起きたので戸惑っているのかもしれない。しばらく迷った末、やっと開いた口からは忍を弔う時の決まり文句が吐き出される。違うだろうそうじゃないだろう俺があの時言いたかったことはそんなことではなくて。
「間に合わなくてすまなかった、俺を待っていたのだろう、俺がいればお前を死なせることはなかったのに、お前を守れたのに、見ろ、どこもかしこも死人ばかりだ、こんなに大勢死んでいるんだからお前一人ぐらい死ななくても良かったはずだ、お前一人ぐらいどうして俺は守れなかった」
 甲高い己の声に俺はぎょっとして覚醒し、身を堅くする。開いた目に映るのはアジトの暗い天井だ。半身を起こした俺は浅い呼吸を繰り返しながら汗がしみる目を押さえる。失敗だ、夢を操作しようなどと考えるべきではなかった。益もない後悔など時間の無駄でしかない、必要な教訓なら既に得ているのだから。俺は強くならなければならない、己や他の何かを守るのならば強くならなければならない。そんなことはとうにわかっていたのだ。