ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

隔靴掻痒(ss)

いつも楽しみに通わせていただいている素敵サイト「愛の劇場」(http://sky.geocities.jp/vesta_villa/ ヴェスタ様)のロビンスーツ飛段に触発されて書いた小話です。調べましたらああいうスーツって本当に売っているんですね。そういうお店のサイトに行きましたら材質・デザイン共に豊富でびっくりしました。このネタでまた書いてみたいです^^




港町を通ったとき、暗い波止場で言い争う男たちを見た。しょうがねーだろ見つかったらこっちの命があぶねえ、俺らがパクられたら手前らだって無事じゃ済まねえんだぞ。だからって鞄ごと海に投げる奴がいるか、あれは末端価格で一千万両は下らないんだ。金の話が出たとたん隣を歩く角都にスイッチが入ったのがわかった。頭巾の下の耳が動くのがマジで見えた気がする。奴は急に歩くスピードを落とし、わざとらしくあたりを見回したりはめてもいない腕時計を眺めたりしていたが、やがてその場を離れると貸し船屋へ行き、小さなモーターボートを一艘とドライスーツを一着借りた。その夜オレたちが何をしたか説明しなくてもわかると思う。オレはいやだと言ったのだ、苦痛には慣れているが冬の夜に海に潜るのはごめんだと。問題はドライスーツのサイズだった。かなり伸びのいいスーツだったが角都が着るには小さ過ぎたのである。今夜は宿をとるから、肉を食ってもいいからと説得されたオレはそのピチピチのスーツを着て暗い海で何度も潜水する羽目になった。頭にくっつけたライトの心細い灯りを頼りに海底を探しまわり、息が続かなくなると腰に縛りつけたロープを引っ張って角都に合図し引き上げてもらう。信じがたいような偶然によって件の鞄を発見するまで、オレは何度もボートに戻って肉を食いに行こうと角都にせがんだが、そのたびに暗く冷たい海に突き戻されたのである。任を終え、ボートの底でゼイゼイ言いながら伸びているオレをほったらかしにして角都は収穫物である鞄を開いたが、その顔がみるみる険しくなるのが明るい満月の下ではっきりと見えた。無能な奴らめ、と角都が唸る。全部水浸しだ、シールをちゃんとしておかんからこういうことになる。ぽいと鞄を海に投げ捨てた角都はへたっているオレをしばらく見下ろしていたが、ふーと息をつくとしゃがみこみ、スーツの上からオレの体を触り始めた。何やってんだよと尋ねると、ボートとスーツの賃借料を無駄にするわけにもいかん、と訳のわからない答が返ってくる。角都ゥ、宿ォ、肉ゥ、と訴えるオレを簡単に(悔しいことだが実に簡単に)黙らせた角都は、お前ゴム人形みたいだなと失礼なことを言い、きつきつのスーツに浮き出ているオレの筋肉や無理やり押し込んだ下っ腹の出っぱりをしつこくいじった。薄手のラテックスは触れられる刺激をもどかしいものにし、力の入らないオレの体に欲求不満がたまっていく。こんなもの早く脱ぎ捨てたいが、脱いだらどえらく寒いだろう。静まるそばから乱される呼吸を気合で整えたオレはホールドしてくる角都を押しのけ、不安定な舳先に移動するとゆさゆさとボートを揺すってやった。オレぁ寒くて腹ペコなんだぞ、今すぐ戻って肉を食わせないんならマジでボートをひっくり返してやるからな。まったくダダをこねるガキにはかなわんと角都はぶつぶつ言ったが、冬の海に投げ出されるのはさすがにいやだったらしい。陸地に戻ったオレたちはひとまず宿を取り、かじめ湯で体の芯まで温まると、肉を食いに外へ出た。あの窮屈なスーツから解放された腹を満たすべくガツガツ焼肉を食うオレに、みっともないからゆっくり食え、肉は逃げないぞ、と角都が注意するが知ったことじゃない。ゆっくり食ってなんていられるか、宿に戻ったらすべきことがあるだろうが。中途半端なまま放っておかれているのはお前だけじゃないんだぜ、角都よ。