ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

縁起もの(ss)



大きな火が焚かれている神社の境内で、年配の男が酒を配る。門松さんもおしめぇだ、あんたらも飲んで行きなせぇ、遠慮せんと縁起もんだからね。暖を取りに立ち寄っただけの角都と飛段だが、急ぐ道ではなし、酒を断る理由はない。きつい甘酒のような素朴な濁り酒を飛段は喜び、ずかっと切った竹筒に注がれたそれをすぐに飲み干しておかわりをもらいに行く。角都、てめーの竹も寄こせよ、エンギモンをもらってきてやるぜ。松の火にあたりながら、角都は土地の女たちにからかわれつつ酒を貰う相棒を眺める。この土地の有力者を始末した帰りに、しかも異教の社で縁起物もないだろうが、神事として人を殺める飛段は気にしないのだろう。あるいは縁起物という意味をわかっていないのかもしれない。やがて両手に竹筒を捧げるようにして飛段は戻ってきたが、よほどなみなみと注いでもらったのか、揺れてあふれた白い酒が筒を垂れ落ちてきているのが遠目にも見えた。角都の竹筒だ。飛段のものより黒っぽいのですぐにわかる。慌てたようにそれを舐め上げた飛段は、無作法を見られていたと知ってへへと笑い、相棒に歩み寄ると自分の竹筒を差し出した。角都はしかし、手を出さない。俺のはそっちのだ、俺のを寄こせ。ハァ?でもオレこっち舐めちまったぜ、見てたろ。俺は俺のを寄こせと言ったのだ、貴様のものなど欲しくない。大きさかァ?ケチケチすんなよそんな変わんねーってホント。うるさいつべこべ言わずにさっさと寄こせ、殺すぞ。小競り合いの後、角都はとうとう望みのものを手に入れる。自他共に認める無神論者の角都だが、たまには縁起物が欲しくなることもあるのである。