ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

モーター音(ss)



古馴染みの情報屋である女からあからさまな誘いを受けたとき、俺も歳をとった、悪いがご希望にはそえかねる、と断ると女はケラケラ笑った。前には悪いオモチャでもクスリでも何でも使ったくせに今は身一つでなさるんですか、真面目になりましたねぇ。話から完全に除外されている飛段が、おい話が終わったんなら行こうぜ、と尖った声を出したのをしおに俺たちはそこを辞したのだが、いつもならけろりと機嫌を直す飛段がいつまでもむっつりとふくれている。俺は放っておいた。こいつに関して俺はプロなのだ、メシに肉でも食わせればニタニタ喜ぶに決まっている。…ところが案に相違して奴はメシの間もずっと不機嫌を貫き、泊まりに入った安くいかがわしい宿で玩具の自販機を見るまで黙りこくったままだった。どんなのが好きなんだよ角都、てめー慣れてんだろォ前には使ってたんだもんなァ。チカチカと光がまたたく自販機をじっと覗きこむ相棒を、俺はできる限り威厳のある声で叱る。ガキが、下らんことを抜かすな。あー悪かったなァ下らなくってよォ。隠しから出した自分の金を自販機に投入した飛段は、ガコン、と吐き出された玩具を持ったまま部屋に入ると、俺の目の前で無造作に服を脱ぎ捨て、包装を破り取った玩具を仁王立ちしたまま自分に入れ始めた。平静を取り繕う顔が引きつっている。慣らしもしていないのだから当然だ。こんな馬鹿げた状況を何とかしたくて俺は相手を嘲ることにする。なんだ、みっともないザマをさらしてやけに必死だな、嫉妬でもしているようだぞ、貴様俺に惚れてでもいるのか。飛段の顔が真っ赤に染まり、鼻の上にしわが寄って鬼のような形相になる。ああ、と歪んだ口から凄みに凄んだ声が漏れる。だったらどうだってんだ、文句あるか角都!重ねて相手を挑発しようとしていた俺はすっかり気おされて、用意していた軽薄な言葉を飲み込んでしまう。急に静かになった狭い部屋にブーンブーンと玩具の動力音が響く。もっとやかましい作動音がする玩具なら良かった、と俺は考える。そうすれば何も言わず何も聞かなかったことにできたかもしれないのだが。