ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

よそ者(ss)

こあん様からのリク「障子」による小話です。こあん様、イメージ豊かなリクをありがとうございます^^



便所で用を足してきた飛段は暗い廊下を裸足で歩いていた。昼間ひどくみすぼらしく見えた古い宿は、夜になると煤けた材を闇に溶け込ませ、妙に奥行きの深い空間となって飛段を取り巻いた。飛段はぶるりと背を震わせた。閉め立てられた雨戸に囲まれた廊下はさほど冷えもしなかったが、何度か角を曲がって歩いているうちに、一人でとても遠いところへ来たような錯覚に陥ったのだった。相棒の待つ部屋に急いで戻るべくひたひたと歩を進めた飛段は、部屋の前まで来て立ち止まった。部屋と廊下を隔てる障子に黒々とした影が浮かんでいる。布団の上で胡坐をかく相棒のものだ。かぶりものを取り浴衣を着こんだ相棒は実際魅力的なのだが、輪郭だけの影は更に若く見えて飛段は戸惑った。その感触すら知り抜いている形がなぜこんなに新鮮に見えるのかと考え、すぐ答に辿りつく。影には縫い目がないのだ。真横を向いた額から鼻、唇、顎の線は馴染みのものなのにまるで見知らぬ男のようでもある。障子の向こう側には自分が出会う前の角都がいたりして、とふざけて想像した飛段はそのイメージにぞっとする。と、影の男が顔の向きを変える。今はこちらに顔か後頭部を向けている。自分が戻ってきたことに当然角都は気づいているはずなのに、なぜだろう、何も言わない。