ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

カンフル剤(ss)

藤堂様のリク「掻き抱く」による小話です。藤堂様、これからもヘンナカとしてお付き合いくださいね。よろしくお願いします^^




俺たちの仕事は無軌道に見えるかもしれないが、実際にはきちんとした下準備が欠かせない。製造業も殺しも金が絡めば基本的に同じシステムをたどるのだ。仕事を終えたのに支払いが行われない、などということになったら取り返しがつかないからである。依頼主に保険をかけて殺したところで得られる額はたかが知れている。殺し自体を目的とする飛段や芸術家を気取る連中、俺には計り知れない目的を持つ奴らは平気で詰めの甘い交渉をしてくるので、出資者との打ち合わせにはたいてい俺が出向く。今回の依頼主である大名は政治にも経済にも聡く、共に語り合うには面白い男だが、交渉相手としてはなかなか手ごわかった。日を重ねて話し合うたびに互いの手の内を窺い、落とし所を模索する商談にいささか疲弊してきたころ、伝令が来たと告げられて、表に出たら飛段がいた。久しぶりに見る外の世界には、ししし、と不思議な音を立てて雪が降っており、笠をかぶってその中に立つ相棒は美しく、予想外のそんなこんなでいっそう寡黙になる俺に、飛段はリーダーからのたわいのない伝言(えーとそんなに無理すんなってクソリーダーが言ってたぜェ、適当なところで妥協しろってよォ)を届けると、笠をあみだに持ち上げ、珍しく物思わしげにこちらの顔を覗きこんできた。大丈夫か角都、ひでぇツラしてるぜ。ああ、あっちが束になってかかってくるのにこっちは一人だからな、だがお前がいたところで何の役にも立たん、話が終わったのなら帰れ。あんま頑張るなよジジイなんだからよォ。冷気の中で若さと精気を立ち上らせている相棒の唇とコートの襟元から俺は目をもぎ離し、背を向けて屋内へ戻ると未練を断ち切るようにわざと音を立てて扉を閉めた。暖かく暗い室内で、あれしきのこと式でも飛ばせばこと足りるだろうに、と考える俺のそばで警護の男がまったく同じことを口にする。わざわざ雨隠れから来るほどのことじゃなかったですね、それともあれは暗号か何かですか。こちらの顔色をじっと読もうとする男の言葉を聞いて、俺はまったく別のことを考える。雨隠れからここまで忍の足で丸二日、思慮深いはずのペインはなぜ飛段を寄こしたのか、そして遠く寒い道のりをあんなつまらぬ伝言を後生大事に抱えてきた飛段は何を思っていたのか。ふっ、と答にたどりついた俺は今閉めたばかりの扉を押し開いて外に出た。硬く細かい雪の降る中、大股に伝令の後を追う。警護の男がついてくるが構うことはない。名を呼ばれた飛段がこちらを振り向く。驚いたような顔がみるみる近づく。俺は右手を大きく振り上げて邪魔な笠をはね飛ばすと、両腕でリーダーの寄こした真意をつかむ。よし、本気を出せということだな。わかった、やってやるぞ。