ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

言葉は便利(ss)



人目のある飲み屋の座敷で、しかも空腹を満たしている最中だと言うのに、角都は辛抱できない。しょっぱなから安酒をあおってしたたかに酔っぱらっていた飛段は、差し向かいからいつの間にか隣に移動してきた相棒に肩を抱かれ、なんだよ、と言いかけた口をふさがれて、コートの前から侵入してきた手に体を触られる。しかしそれは短時間で、身を離した角都が通りかかる店員に酒とつまみの追加を頼むものだから、ただでさえ粗末な飛段の頭は混乱する。注文と飲食の合間にいくども口づけられて体を探られる飛段は、考える時間を確保するために自分の前に置かれた野菜サラダの皿(角都は本当にいじわるだ)からプチトマトを取って銜える。いくら角都でもグチャグチャものを食ってる人間にキスはしないだろうと踏んでいた飛段はすぐに相棒を見くびっていたことを悟る。噛みつぶされたトマトは互いの口を行き来した後に飛段の喉を下っていく。いいぞ飛段、と低い声が耳を打つ。お前にしちゃ上出来なプレイだ。プレイじゃねーよ、と飛段は言いたいが息が切れて呂律は回らないし、いじられて汚れてしまった急所をおしぼりで拭かれている身では説得力に欠けるような気もする。相棒のコートの前を適当に合わせた角都は店員を呼びとめ、またもや注文を入れる。大トロの刺身と冷や奴、それに茶碗蒸しを頼む、あと手拭きが汚れたので取り換えてくれ、いやこいつは飲みすぎただけだ、俺が介抱しているから気にせんでいい。うへぇこれって介抱なの、と飛段は初めて危機感を覚える。こんな介抱が続いたらオレ一体どうなっちゃうんだろう。そんな相棒の不安にはお構いなく、さあ水を飲め、と角都が生の焼酎を飛段の口に流し込む。相手を押しのけようとする飛段の腕はますます重くなり、届いた大トロも豆腐も角都の箸で飛段の口に運ばれ、角都の歯で噛まれて飛段の喉を通る。朦朧とする意識の中で、飛段は店員に呼びかける相棒の声を聞く。悪いがどこか部屋はないか、連れが悪酔いしてしまったので少し休ませたいのだ。低く落ち着いた声を飛段は半ば呆れ半ば感心して聞いている。言葉というものはうまく使えばどんなにヘンテコなものでも包み隠せるものらしい。そうして連れて行かれた小部屋で飛段は角都の言葉通りゆっくりと休むことになる。一般的にはプレイと呼ばれる本格的な介抱を受けた末に、相棒の腕の中で。