ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

鈍感(ss)



あぁ降ってきやがった、と飛段が言ったので角都は天を仰いだ。空気は湿気をはらみ、ちぎれた黒雲が低く飛んでいるが、まだ水は落ちてきていない。そう言うと、飛段はへっとバカにしたように笑った。オレぁテメーと違って感じやすいんだよ、枯れて鈍感なジジイと一緒にすんなよな。その後、かすかに舞う水分を感知した角都は相棒の正しさを知ることになる。水分はそのうちまとまった霧雨となり、山道を歩く角都と飛段をすっぽりと包んだ。一見小さな山に見えるほど巨大なしだれ桜のそばを通過した二人は、その幹が大きなうろになっているのを見てとり、そこで雨宿りをすることにした。相棒と肩を寄せて薄暗く狭い場所に腰を下ろした角都は、鼻先の相棒の髪が細かな水滴に覆われてちりちりと光を放つさまに見とれた。とてもきれいだ。あれに触れたらどんなだろう。マスクを外し、相棒の濡れた髪にそっと口づけた角都を、しかしすぐに飛段は振り払う。あっテメーひとの頭で洟を拭きやがったな、くそっオレにも拭かせろ、テメーばっかずるいぞオイ。頭巾をつかもうと伸ばされる手を叩き落とした角都は相棒の頭に重い拳骨を落とし、イッテェェ、と呻く頭をため息まじりに眺める。「感じやすい」が聞いてあきれる、この情緒を介さない野暮で粗野で鈍感で魅力的な阿呆め。