ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

贅沢な時間(ss)



飛段の話は続く。そこまで来てオレぁやっと道を間違えたことに気がついたんだ、オメーからの伝令だと思ってたカラスは飛んでっちまうし、それまでうろちょろしてたはずの奴らもいなくなってそこがどこかもわからねぇ、オメーがそこにいねぇことだけはわかってるから歩き続けるんだけど、様子はどんどんおかしくなってきてよ、木も草も砂利もなくなって光も薄くなって、オレは色のない粘土みたいな地面を横になりてぇのを我慢してずっとずっと歩いていくんだ、あきらめてもあきらめなくてもずっと歩いてれば草も木も戻ってくるかもしれないオレは死なないんだから、でもオメーの所まで帰れんのかなあ、それまでオメーは待っててくれんのかなあって思ったら喉の奥がキリキリしてきてよぉ。自分の寝台の上に半身を起こした角都は、だらしなくべそをかく相棒を股の中に抱えながら欠伸を噛み殺す。かわいそうにとは思うが深夜にいきなり叩き起こされ個人的な悪夢の話を聞かされても共感は難しい。とにかく眠い。しかしガタイの良い相棒を首にぶら下げて眠れるほど頑健でもない。角都は猿のように抱きつく飛段を両腕で抱いたままゆっくりと敷布の上へ身を倒していく。涙や鼻水を肩口で拭かれてもよしよしと頭を撫でてやる。やや強引に毛布にくるまれた飛段は、だんだん温まってきた手で角都の頬の縫い目をいじりながら、二人揃っておんなじ時間におんなじ場所にいるってすっげー贅沢なことなんだぜ角都、と眠そうにぶつぶつ訴える。もう黙れ、と唸った角都はそれでも相棒が寝入ったことを確認したのち、すぐに自分もそのあとを追う。共にあって共に行う、確かにこんな贅沢は他にはないのかもしれない。