ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

鬼(ss)

藤堂様のリク「刃物を研ぐ」による小話です。藤堂様、深みのあるお題をありがとうございます。



古い街道沿いに建つ民宿で、修羅場の予感に飛段は舌なめずりをする。旅人を片端から殺しているという中年の女はさきほどから自室にこもっている。シュー、シュー、と襖から漏れるのは包丁を研ぐ音だ。早く始めたくて前のめりの相棒に角都は注意を促す。依頼主が言うにはあの女は変化すると三面六臂となって包丁を投げたり振り回したりするらしい、もともと不安定な忍だったが能力の暴走を恐れた里に子を殺されてから完全に気が狂い、自身の制御すらできなくなったそうだ、里長が手を焼くのだからよほどの腕前なのだろう。シュー、シュー、と音はきりなく続く。結界となっている襖の隙間から中を覗いた飛段は研がれる包丁の数と般若のような女の顔に驚く。すげえな、泣きながら怒ってるみてーなツラしてるぜあいつ。へへへ、と笑う飛段を角都はたしなめる。あの女は復讐者としても狂人としても俺たちの遥か先を行く者だ、敬意をもって屠れ、侮って気を抜くと死ぬぞ。それをオレに言うか角都よ。研ぎ澄まされる刃物と殺意を前に、角都がまず結界を解く印を切る。そして開けた襖からなだれ込み、それを室内で待ち受ける、いずれも鬼、鬼、鬼。