ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

正義は勝つか勝たないか(ss)



俺に傷つけられ飛段に討ち取られた男は死の間際まで自分が勝つと信じていたようだった。どういうはずみか大木の幹に寄りかかったままこと切れている男は驚いたような顔をしていて、杭を胸に突き立て地面に横たわっている飛段よりもよほど生きているように見えた。やがてむくりと身を起こした飛段も同じ感想を持ったらしい。そいつマジで死んでる?と、こちらに尋ねてくる。俺に訊くな、お前が殺したんだろう。や、殺したはずなんだけどよォ、痛みも恐怖心もイマイチだったっつーか。立ち上がった飛段は死体を突き転ばして、あーやっぱ死んでらァ、と暢気な声を上げた。なんだっけ、お前らを生かしてはおけない、だっけかこいつのセリフ、やけに自信満々だったよなァ。善悪と勝負をいっしょくたにするタイプだろう、教師かもしれん、人間高尚過ぎると早死にするいい例だな。何気なく口にした言葉に飛段が反応して笑いだす。そいつぁ変だぜ、善悪ったってもしこいつが勝ったらこいつ人殺しじゃねーか、つまり勝つのはいつも悪人なんだよ、違うか角都。飛段にしては珍しく破綻のない意見だ。だが価値観によってくるくる裏返る善悪と絶対的な勝負を結びつけること自体がおかしいと考える俺は素直に頷けない。珍しく哲学的な俺たちを、地面に転がる高尚な死体が眺めている。驚いたような顔で。