ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

転がっていくその先は(ss)



ズボンのポケットを探ったら、今日道端で拾ったまま忘れていた五十両玉が出てきた。どうしようかなと思ったけど角都にやることにした。使ったら一瞬でなくなるカネだが、角都にやれば「あのとき五十両やったろ」といつまでも恩に着せることができる。けどただやるだけじゃつまらない。なのでオレはズボンを脱いで尻たぶの間にカネを挟み、わけのわからない古本に頭を突っ込んでいる角都の背中にすり寄ってその肩に顎をのせ、耳元でひそひそと言った。なあ角都、オレたちも長い付き合いだ、オメーが本気で欲しがっているものをそろそろくれてやってもいいと思ってるんだが、どうだ、欲しいか。一呼吸、二呼吸おいて角都の首がゆっくりと回り、オレを見る。オレはにっこり笑ってやる。ほらほら手には何も持ってねーぜ、なにせマッパなんだから隠すところもない、何がもらえると思う、当ててみろ!………オレの心づもりとしては、ここで角都が「何をくれるかさっぱりわからん降参だ」と言い、そこでオレがキシキシ笑いながら尻に隠した五十両玉を奴に手渡すはずだったのだ。なのに急に角都がとんでもなくいい声でオレを呼んだりするから調子が狂ってしまう。え、え、と見ているうちに奴はマスクと頭巾を取り、もう片腕をオレの背にまわして、なんというか、やけに親切な感じに抱き寄せるので、いつの間にやらオレは奴の腕に巻かれて奴の太腿にまたがり奴にチューなんかされてしまっている。と、尻の間から滑り出た五十両玉がカツンと床に落ち、ろろろ、とどこかへ転がっていく。カネが気になって身をよじるオレを角都がぐいと引き戻す。ここまできて焦らすな、さあ俺の望むものをくれてみろ、飛段。うわぁ、とオレは全身に鳥肌を立てる。暴力にはいくらでも対処できるが、こんな声で呼ばれたらいったいどうすればいいんだろう。情けないことだがオレの余裕は頼みの綱の五十両玉ともどもどこかへ消えてしまったらしい。