ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

相互学習(ss)



梅雨が明けたと思ったら炎暑だ。むんむんとした草いきれが立ちこめる野で角都が忍を片手で縊り殺す。頸椎がこすれあって軋み、ここっ、と音を立てて砕け、引きつっていた人体がばらんと垂れ下がる。もはやそれは人の形をした皮の袋でつながる肉と骨にすぎない。儀式で一人屠ったばかりの飛段が相棒に歩み寄り、何を思ったか、首絞めて殺すのってなんかエッチくせぇなァ、などと言いだす。オレもやってみるかな、超気持ちいいだろーなァ。角都は鼻で笑う。絞殺でその気になるとは変態め、それにお前の腕は伸びん、ということはお前が首を絞めている相手もお前の首を絞められるというわけだ、大したフェアプレー精神だな。笑われても飛段は平気な顔をしている。そこがいいんじゃねーか、オレが相手を絞めて相手がオレ絞めて、どっちが先に落ちるかギリギリまでやりあえたらきっとマジ興奮するぜェ絶対、儀式でやりゃあ苦痛も快感も二倍だもんな、ゲハハァ。天へ向けた瞳を揺らし、まるでことの最中のような笑いを漏らす飛段に心を乱された角都は、それを苛立ちであると考え、さっき人を絞め殺したばかりの片手で飛段の首をつかんで相手を黙らせようとする。いきなりの攻撃に飛段は面食らったような顔をするが、すぐ何かを納得したように角都の首に自分の手を伸ばしてくる。そして飛段は学ぶ。片手で他人の首を絞めるには大きな手ととんでもない握力が必要であり、両手で絞めるには本当に相手のすぐそばまで寄らねばならず、加えて衣類で喉が隠されている相手を縊るのは難しいということを。対する角都は親指の腹で相手の喉仏を揉むようにゆっくりと押しつぶしながら、絞首がエロティックであるというのはまんざら的外れでもないな、と相棒の論の正しさを認める。しかし推論の段階で二人は誤りをおかしている。まず、絞首の興奮は相手方の人選に大きく左右されるという事実の見落とし。それにこれはフェアプレーではない。これから炎暑の草むらで角都だけが味わう愉悦を考えたら、とてもとてもフェアとは言えない。