ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

てのひら一つ分の影(ss)

こあん様からのリク「逃げ水」による小話です。こあん様、季節にぴったりのリクをありがとうございましたヽ(^o^)丿



コートが欲しかった。風通しがよく蒸れない、それでいて日光はビチッと遮る、軽いやつ。つまり今着ているのと正反対のやつだ。笠も欲しい。広ければ広いほどいい。それをかぶってじっと動かずにいればいつまでも日陰にいられるし、そのうち日が暮れるだろうから、そしたら道中ももう少しマシになるんじゃないか。お前は文句ばかりだな、と相棒が唸る。夏は毎年やってくるのだから俺たちの方が夏に慣れるしかなかろう、無駄口を叩く暇があったらせっせと歩け。へっ、とオレは心の中でぶつぶつ言う。奴だっていい加減うんざりしているはずなんだ、だいたい「俺たち」と言っちゃうあたりでケツが割れている、昨夜だって眉間にしわ寄せて暑そうに寝てやがるから寝顔をふーふー吹いてやったらなんか気持ちよさそうなツラしやがって、おかげでオレはずっとふーふーする羽目になって寝不足なんだぞコラ。オレの心の声なんか知らない相棒は日に照らされて真っ白に見える黒いアスファルトの上を黙々と歩いていく。一本道は地平線まで続いていて、だから少なくとも地平線までは日陰になるものが何もないのもわかっていて、オレは心底イヤになる。道の先にゆらゆらと水たまりが見える。最初見たときは、あそこまで行けば一息つけるって思ったもんだけど、何度も失望を繰り返してオレは学んだ。あそこには何にもないんだ。見えているのにない。世の中を信じすぎちゃいけないってことなんだろう。太陽の熱をしこたま溜めこむコートを着て歩きながら、ここで死んだ真似をしたら角都がオレを運んでいってくれるかな、とちょっと考えたけどやめた。きっと角都はオレを見捨てていく。だって行く先には儲け話があるし、オレは重いし死なないし、だから奴が目的地で用を足して帰ってくるまでオレはアスファルトの上で干からびながら死んだ真似を続けることになりそうだ。角都はほんのときたま優しくなるけど、これだって信じすぎると危険だと、水場を追ってどこまでも走って行った過去のオレが説教する。所詮オレたちは犯罪者で他人同士だ。うなだれて白い道だけを見て歩いていると、ふっと後頭部に降り注ぐ陽ざしの圧力が弱まる。雲が流れてきたのかもしれない。けれどもあたりには影ひとつ落ちていない。気のせいか、とオレはうなだれたまま歩き続ける。目を上げるような阿呆なことはしない。いいものだと思って期待しすぎたらその後の落胆が辛いじゃないか。