ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

身をもって償え(ss)



依頼主からの要望に従って変化した俺は、仕事を終えたあと、そのままの姿で相棒と落ちあった。ちょっとしたいたずらだ。いや、正直に言おう、俺は悪趣味な趣向を実行しようとしていた。今の俺の容姿はかなり優れている。これで飛段を誘惑したらどうなるのか試してみたかったのである。はたして飛段は「角都の古い友人」を装った新しい俺にあっさりと誘われた。照れているのか押し黙ったままだが、現にいかがわしい宿まで初対面の男に同行したのである。自分で始めたことながら俺は激しく動揺し、同じぐらい失望もする。確かに俺はさりげなく誘った。「君が角都の連れか、私は角都の古い友人だがあいつはまだ商談中でね、金がからむとあいつがどんなふうになるか知ってるだろ、しばらく時間がかかりそうなんだが、その間君が退屈だろうとあいつが私を寄こしたのさ、飛段君だろキミ、角都の定宿が近くにあるんだが、よかったらそこで角都を待たないか?」容姿にふさわしい滑らかな声で誘いながら相手が突っぱねてくれるのを待っていた俺は裏切られ、相棒と連れ込み宿の一室で顔を突き合わせることになる。早くこんなことを終わらせたい半面、相棒がどこまではしたないのかとことんまで見極めたい気もして、俺はベッドに(ベッドに!)どかりと腰を下ろした相棒のそばに寄り、撫でるように頬に触れてみる。鋭角的なのに甘さのある曲線、飛段はこれをこんなにも簡単に他人にも触らせるのかと感傷的になっていた俺は、その手をぐいとつかまれて我に返る。優男は手までキレーだな、と言った飛段はあろうことかこちらの親指を口に含み、ギリ、と噛みしめてから解放する。なあおっさん、オメーいったい誰なの?角都の何なの?オレは角都と組んで長いけどオメーのことなんか全然知らねえ、けどオメーは角都のこともオレのことも知ってるんだよな、それってなんかすっげームカつくんだけど。半ば笑うような声でしゃべる飛段の手にはいつの間にか仕込杖が握られ、その先端で切り裂かれた手のひらからバタバタと血がしたたる。オメー角都とデキてんの?ここに角都と来たことがあんだろ、ここラブホじゃねーか、こんな場所で角都となにしてたんだよ、おい黙ってねーでなんか言えよコラ。徐々に激昂する飛段と対照的に俺は黙したまま、黒く染まった飛段の爪先が板張りの床に円を描き始めるのをうっとりと眺める。すでに主導権は飛段に握られている。保身を考えるべきなのだろうが俺にも飛段の興奮が乗り移ったらしい。殺せ、殺しつくせ、と俺は熱に浮かされたように念じる。そうだそれでいい、俺たちに許可なく俺たちに触れる者は、どいつもこいつもみな死んでしまえばいい。