ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

我慢のしどころ・ション7(ss)



角都の使いで町に出たとき、ションベンしてから出かければよかったと後悔した。まあ先方で便所を借りればいい、と高を括っていたオレは、故障中と貼り紙されたドアの前で少し焦る。出せないとなると尿意は一気に高まる。使いの用を終えたオレは物陰で立ちションしようとしたが、壁に向いたとたん巡回中のおまわりに見つかり、こっぴどく注意を受ける。この街は清潔で売ってるんですよ不潔行為は一万両以下の罰金になりますよしかも猥褻物の陳列も罪状加算になると三万両ですよ。オレはそいつを殺したかったが、ちょっとでも力を入れたらやばいところまできていたのでしかたなく立ち去る方を選んだ。もっといかがわしい町なら良かったんだろうけど、ここは金持ちやら政治家やらが事務所を構えているような場所で、入口がどこかわからないようなビルばかりが立ち並び、警備員どもがうじゃうじゃいる。しかも真っ昼間だ。いよいよ切羽詰まってきたオレは、公園とは名ばかりの空き地にようやく公衆便所を見つけ、体を上下させないようにすり足でその中へ入っていく。薄暗がりの中、ああ便器!便器がある!と乱暴にナニをつかみ出しながら歩を進めたオレは、便器のそばに影のようにしゃがんでいる男にぎょっとし、足を止めてしまう。野郎は変にすばしこくオレと便器の間に割って入り、きれいなスーツの膝を便所の床についてオレを見上げる。兄さん用を足したいんでしょうどうぞ遠慮なくやってくださいかけてくださいおれを便器だと思ってさあ早く。…正直やっちまおうかとオレは思った。ここは便所だ、出す気満々だった液体はもうそこまできている、便器に出そうがこの変てこな野郎に出そうがどうでもいいじゃないか…。我慢したのは、角都がこんなふうに誰かに頼まれてそいつの顔めがけてションベンしたりしたらイヤだな、と思ったからだ。なぜかは説明しづらいがとにかく許し難い。なのでオレは回れ右をするとつかみ出したナニをしまいながら表に出る。外は相変わらずビルと警備員、巡回するおまわりでいっぱいだ。汗だくになって徘徊を再開するオレを自転車に乗ったおまわりが追い抜いていく。世界はどうしてもオレにションベンさせたくないらしい。