ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

惚れたが無理かえ(ss)



酔って帰ってきた角都は少し饒舌だ。宿で一人テレビを見ていた飛段に、今日の話し合いがいかに有意義なものだったか、それによって今後どのような利益が生まれるかという、飛段にとってはどうでもいい事柄を話し続ける。飛段は角都に背を向けたままで、とてもよい聞き手の態度とは言えないのだが、酔っている角都は気にせず好きなように話を進める。その女はなりたての芸妓でな、俺たちが話しているのがどんなに血なまぐさいことかわからんのだろう、言葉尻をつかまえては意味を尋ね、何がおかしいのかくすくす笑うのだ…。座卓に頬杖をつき、今日の酌婦のことを語っていた角都は、目の前の相棒の背がひどくかたくなに見えることに気がつき、言葉を切る。全体に力んだような背中は四角く、首は亀のように前に伸びてそこだけでも角都から離れようとしているかのようである。いつもはたるんだだらしない姿勢でいるくせに、それに、角都が話していても無遠慮に割り込み言いたいことを言い放つ飛段が、なぜか今夜はひと言も口をきかない。どうしたことだろう、と考え始めた角都は今まで話していたことを失念してしまい、ぼんやりと記憶をたどってやっと思い当る。そう、芸妓だ、その女がな、お前が以前宿で耳にしてよく思い出せないと言っていた小唄を歌ったのだ、お互いに知れぬが花よというあれを、拙かったが、あれをお前に聞かせたかった、俺が覚えて歌ってやれれば良かったが俺もそのとき既に酔っていてな、うむ、あれをお前に聞かせてやりたかった。ぶつぶつと呟き終わった角都は言いたいことを言って安心したのか座卓に伏したまま眠ってしまう。飛段がその体を抱き起こして装備を脱がせ、布団へ寝かせてやっても起きることはない。