ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

助け合い(ss)



夜更けに飛段が、かんそうぶんなんかかけねえ〜、とよろよろした声をあげたので、寝入りばなだった俺は目を覚ましてしまった。ムッとしながら顔を覗き込むと、草の上に大の字になった相棒はまぶたの下の目玉をぐりぐり動かし、盛んにむにゃむにゃ寝言を言っている。ああそうかそういう時期か、と遅れて納得した俺はためしに相棒に問いかけてみる。朝顔の観察はどうした。かれた〜。日記は書いたのか。かいてねえ〜。苦しげで悲しげな声と顔に俺は失笑する。ひどい夢を見ているに違いない。相手の悲嘆ぶりに腹立ちもおさまり俺も再び寝入ったのだが、飛段の苦悩が伝染したのか俺まで悪夢の中に入り込んでしまう。遠い日、優等生だった俺は宿題で悩むことなどなかったが、他人と慣れ合うことが不得手だったため徹底的に孤立していた。幼いころには孤独にも馴染めず、学期始めには実に憂鬱な思いをしたものだ。夢の中の俺は教室のまん中に席を与えられ、一人で本を読んでいる。周囲の子どもたちは友人たちと大声で騒ぎ、笑っている。夏休み中に連れて行ってもらった場所、買ってもらったもの、人気のテレビアニメ。ありふれたくだらない話に加わりたいわけではない、何を話せばいいのかもわからないのだから。しかし孤独もつらい。読み飽きた本に集中するふりを必死に続ける俺の耳に、ふと弱々しい呼び声が聞こえてくる。かくず〜、かくずよ〜。声に釣り上げられて眠りの海を浮上する俺は、夢の最後の場面でべそをかきながら教室に入ってくる劣等生の姿を確かに見る。しくだいみして〜、かくず〜。現実の世界に戻ってきた俺は身を起こすと、図体だけ立派な悲しい劣等生のそばに這い寄り、その体を腕の中におさめる。粗末なくせに見目は良い頭が鼻先すぐに寄せられたので、その無防備な耳朶に俺はささやく。大丈夫、宿題は写させてやるし読書感想文も代わりに書いてやろう、だから泣くな、俺から離れるな、わかったな、飛段。