ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

口は禍の門(ss)



一般人のふりをして薬の売買所へ入った。飛段も一緒だ。依頼時に示された致死性のある錠剤が、興奮剤としてどんどん売られていく。まあこんなところに来る輩は半分死んでいるようなもので、それを改めて殺したところでどうということもなさそうだが、依頼主はそう思わないらしい。それとも愛人が薬で死んだというのは口実でただの縄張り狙いかもしれないが、金払いが良い以上俺にとってはだいじなお客である。順番が回ってきた俺は薬を試させろと交渉する。おかしな偽薬に大金を払いたくないんでな、だが本物だったら大量に購入したい、ここの主人に訊いてもらえまいか。売り子は面倒くさそうに裏へ入ると、ひょろりとした男を呼んでくる。目標の男とは違う。俺は再び交渉する。俺はイベント屋でパーティーを企画している、それなりに金の動くイベントなので目玉として薬を配りたい、無論服用は自己責任で誰かが過剰摂取しても俺たちはもちろんお宅の責任にもならない、ただし薬の質は試させてもらうがいいか。男は考え、奥の部屋へ戻り、再び顔を出すと俺たちを手招きする。薬は飛段に試させる。服用した飛段はまずさかんに瞬きをし、鼻をこすり、そのうち目を潤ませて頬を紅潮させる。そのうっとりした顔を忌々しく眺める俺に、先の男が支払いについて尋ねてくる。俺はアタッシュケースを少し開いて中を見せてやる。金はある、だが責任者に直接渡したい、これからのこともあるし顔をつなぎたいのだが、いかがか。金の力は偉大だ。ひょろりとした男は当初難色を示したが、結局は監視カメラに頷き、雇い主を呼ぶことになる。主人を待つ間、男は突然顧客となった俺をもてなすべく薬の宣伝をする。これは最近の売れ筋で常習性がないわりに効きが良い、初心者ならば二、三錠で一晩楽しめる、ためしにそこの兄さんにあと二錠飲ませてやってもいい。そう言って男はニヤリと笑う。あの兄さんにならむしろ飲ませてみたい、それだけの価値のある体験をさせてくれそうだからな。俺は特にコメントせず無表情に徹する。入室した主人を間髪入れずに殺したときも、どこまでもひょろりとした男の喉を握りつぶすときも。だが、そいつのポケットから試用薬の袋を盗むときには口の端を上げてしまう。それだけの価値のある体験、か。黙っていればもう少し長生きができたものを、思ったことをそのまま口にするとはなんと素直な男だったことだろう。