ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

写真(ss)

さくま様からのリク「ほの字」による小話です。リクのはんなり、軽やかな感じが皆無です^^;好きだ好きだ!という話にしようとしたらいつの間にやら…。



古物商を模した情報屋を訪ねたとき、老齢のその女が飛段に玩具のようなカメラをくれた。プラスチック製の安っぽいトイカメラには専用の小さなフィルムが入っており、手巻きノブを回すとカリカリとフィルムを巻き上げ、残りの枚数を小窓に律儀に表示した。ときおり手の中でカメラを弄んでいる相棒を意識にとどめていた角都は、飛段が長期の任務に出ている折にその部屋からカメラを見つけ出し、フィルムが使い切られていることを確認して現像に出した。あいつに持たせておくとそのままになってしまうからな、と言い訳をしつつ、実は相手のプライバシーに興味津々であった角都は、少々うしろめたく思いながらプリントを受け取り、アジトの自室でそれを広げたのである。フィルムのコマ数分の紙片には飛段視点の情景が焼きこまれ、自分の記憶と照らし合わせた角都はかすかな驚きとともにそれを見る。ピントの甘い固定焦点のカメラで飛段は角都が気に留めないもの―空、道、看板、宿の部屋など―を撮影していた。美しい女を盗み撮ったものもあり、ほほう、とそれをしげしげ眺めた角都は、その女をじっと見る自分の姿まで画面に写り込んでいることに気づく。余計な情報にムッとし、ぱらぱらと他の写真を見直した角都は、それらすべてに自分が写っていることに気がつき、目を見開く。小さな角都の後ろ姿の背景に広がる青空、角都の右肩越しに伸びる石ころだらけの道、看板の下の店で道を尋ねる角都、宿でごろ寝する角都とその隣に並べ敷かれたもうひと組の布団。いつも隣にいるのだからフレームに入ってしまうのも無理はないと結論づけ、角都は重ねてそろえた写真とフィルムを相棒の部屋に置いてくる。そして日常の仕事を行うために机に向かったとき、角都はふいに片手で目を覆って俯く。見守っているつもりで見守られていたことに今さらながら思いが至ったのである。