ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ころ、あい(ss)

さくま様からのリク「今日は勘弁!」による小話です。さくま様、かわいいお題をありがとうございます^^



一人任務の間はなんでも自由にできるが、自分の力の限界を思い知らされもする。あの手っ取り早いコンビ技は使えないし、野営の火熾しも角都のようにはできず、町ではやたらと声を掛けられ、宿に入れば見知らぬ人間が部屋まで入ってこようとする。多分オレは甘く見られているのだろう。今日も訪ねた情報屋にからかわれてなかなか肝心のものを渡してもらえず、あいつ殺せばよかったかな、でもあいつは角都と仲がいいから殺すと後々面倒だな、などと宿で悶々としていたオレは、窓の外にひらひら動くものを認めて身を起こした。式だ。一見地味な灰色の小鳥だが、風切羽の端が少し特徴的に長いあれは相棒の、と気づいたオレは自分でもおかしいほどの勢いで窓に飛びつき、式を部屋へ入れた。オレが触れたらあれは紙切れに形を変え、その紙切れもすぐに消えるのだろう。惜しさに呼吸を浅くしながら、それでも広げたオレの手の中に式はするりと入り込み、一瞬ほのかに発光して、一枚の紙切れとなった。真ん中に見慣れた筆文字で「お前は俺が必ずころしてやる」と書かれている。オレはぽかんとしてしまう。いつも口癖のように言っているこんなことをわざわざ式を飛ばして知らせてくるなんて角都の気が知れない。裏を見ても他に何もなく、オレはまた短い本文を眺めてみる。違和感があるとすれば、殺し、に漢字をあてなかったことぐらいか。それぐらい読めるのに、と思ったオレは、ふと気がついて崩しに崩した筆文字をじっと見つめる。決まり文句に疑問を持たず読んでしまったが、ころ、という字は崩したところでこうはならないだろう、この二文字は、これは。はっとしてもう一度見直そうとしたとき、紙は軽い粉のように手ごたえを失い、薄く光って消えてしまう。オレはしばらく身動きせず、記憶に残った筆文字に思い当った言葉をあてはめ、確信を持ってからゆっくりと床に腰を下ろす。喉の奥にせりあがるものを飲み込み、拳で目と鼻を拭う。言う相手もいなかったから黙っていたが、今日は本当に辛いことばかりだったのだ。そんな日に限って式を寄こすとは、角都よ、お前はなんと恐ろしくも優しい男なのだろう。