ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

Viva la vie!(ss)



古本を買った角都に本屋のオヤジが、よければこれも持っていってくれ、と別の本を差し出した。買い手がつかないし捨てるのも気味が悪くて、とオヤジは言ったが、中を見てなるほどと合点がいった。賞金首の死体の写真ばかりを載せた、他殺体のカタログともいえる一種の珍本だったのだ。各々の顔と体、致命傷の白黒写真が、その人物の略歴とともにずらずら並んでいる。角都は時間をかけてそれらをちゃんと読んだ。どの属性にはどの攻撃が有効か、なんてメモまで取っていたから奴にとっては良い教本だったのだろう。オレはと言えば死体の見本市みたいな本に魅了され、相棒の肩越しによく覗きこんでいた。だからだろう、読み終わったその本を角都はオレにくれたのだ。オレは喜び、熱心に写真を眺めたが、見ているうちになぜか不安でそわそわし、そのたびに角都の姿を目で追った。まあたいていオレは相棒のそばに陣取っているので、その気になれば見たいものがすぐに見られたのである。ところが今日、いつものように目を上げると、すぐそこに座っていたはずの角都がいなくなっていた。オレはさっきまで角都が座っていたはずの椅子を見つめ、急によそよそしくなった部屋を見回してから、また椅子に視線を戻した。いないと思ったのは見間違えだったかもしれないと願ったのだが、そうではなかった。髪の毛の根元がちりちりしてきて、オレは寝そべっていたベッドから飛び下り、廊下に続くドアを開ける。しんとした空気に、何もない!とオレの中身が悲鳴を上げる。さっきまで全部あったのに何もない!そのとき、部屋の奥からかすかな音が聞こえ、オレは飛んでいってそこのドアを引き開ける。用便を終えて尻を拭こうとしていた角都がぎょっとした顔でこちらを見ている。真っ裸のところを見ると風呂の前の便所だったのかもしれない。その顔がみるみる赤黒くなり、きさま、と唇が動くのを見てオレは大急ぎでドアを閉め、とたんにすさまじい圧力がかかる一枚の板を押さえながら大声で言い訳をする。おい怒んなよテメーが元気ならそれでいいんだ、そう怒んなってェ角都ゥ。叫ぶ間にもみりみりと内側からふくらんでくる板はもう持ちそうにない。オレは一瞬がんばってからすばやく飛び退り、勢いよく開いた便所のドアからこちらに踏み出してくる相棒を待ち受ける。怒り、暴力、なんという荒々しい喜び。オレは大きく呼吸をする。世界だ、世界が戻ってきたのだ!