ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

生き方は選べるが死に方は選べない、ましておれは死なない身だから(ss)

ずいぶん前に書いた「そんな話」の飛段視点です。あれを書きましたとき、我が友さくま様がそのイメージを広げてくださったのですが、これはその案をぱくった話になっております。さくま様の話にあった不可思議な、詩的なイメージは残念ながらなくなってしまいました…なぜだろう…;;




その国の精鋭たちを相手に角都はよく戦った。オレもがんばった。だが強い忍が大勢揃った部隊というのは思ったよりも厄介であり、慣れない土地でオレたちは苦戦を強いられた。まずオレが右腕を落とされた。角都は心臓一つを失い、それでもオレのもげた腕をふところにしまって大技を連発した。よくチャクラが持ったものだと思う。とうとう劣勢が明らかになると、角都は偽暗に連中を足止めさせ、オレを連れて土遁で地下へ逃げ込んだ。地上は見渡す限り平地で身を隠せるようなところがなかったからである。ここは昔炭鉱で食っていたところだからな。でかい蟻の巣のような地下のトンネルを走りながら角都がしゃがれ声で言ったが、オレは残してきた偽暗が気になって角都が苦しんでいることに気づかなかった。避難用なのか、小さな横穴を見つけた角都は入ってあたりを確認し、指先に灯していた火遁を消すと、飛段、後は俺が回復するまで待て、と言って、ざりざりと音を立てた。ふいの暗闇の中でオレは相棒に這い寄り、あの頑丈な体が地べたに横になっていることを知ってひどく動転した。きっと戦いの最中に毒か細菌を仕込まれたのだろう、角都の体は変に熱く、じっとりしていて、胸がせわしなく上下していた。オレは角都のふところから自分の腕をとり出し、コートを脱いで、それで角都をくるんだ。奴は自分のコートを地上に置いてきてしまったのだ。角都が黙って包まれたのでオレは不安になったが、まあ奴のことだからすぐに回復するだろうとたかをくくってもいたのである。時間もわからない暗闇でオレは相棒の頭を腿に載せ、そのまま長い間じっとしていた。偵察に行きたくもあったが、火遁も何も使えないオレのことだ、いったんここを出たら二度と戻れないに違いない。角都の呼吸は次第に速く浅くなり、指で探った唇は割れ始めた。乏しい兵糧丸はすぐに尽き、飢えがオレたちを訪れた。オレは自分の小便を布に染ませてすすったが、角都は発汗のせいか小便すら出さず、かと言ってこちらの小便を飲ませるのは気が引けて、結局オレは自分の手首を噛み破り、血を角都に飲ませた。指に触れる角都の顔は骨ばり、体調はどんどん悪くなっていくように思われた。あるとき角都が何かを言ったのでオレは一瞬ものすごく喜んでしまったのだが、内容を聞いて喜んだのと同じぐらい真っ暗な気持ちになった。変だな、と角都は言ったのだ。あいつは死んだはずだ、なぜここにいる、ああ、あいつも昔に死んだはずなのに。だめだ、と久しぶりに出した声はあまりにも泣き声に似すぎていたのでオレはからからの喉で咳ばらいをし、もう一度、だめだ、と言った。角都、どんなに懐かしくても一緒に行くんじゃねぇ、行っちゃだめだ、いいな。手探りで握った角都の手は温かかったけれど、握り返してはこず、オレはまるで痛めつけるようにそれを握りしめた。角都は不死ではない、衰えが続けば死んでしまうかもしれない。オレは食えるものを探した。何度も探ったポケットはやはり空で、布も土も鎌も食えない。そうだ、オレの目玉はどうだろうか?闇にすっかり慣れてかすかにものの輪郭をとらえられるようになったオレの目玉。いや、誰かがここを嗅ぎつけたときに戦えない状態では角都を守れないだろう。では舌は?舌がなくても戦えるし、角都はいつもオレがしゃべりすぎるとぼやいていた。だが舌がなくなったら角都のうわごとに応えられなくなってしまう。死人たちに連れて行かれないよう引きとめてやらなければならないのに。そのときオレは切り落された腕のことを思い出し、大いに喜んでそれを取り出した。腕一本でどのぐらい持つかわからないが、これがなくなっても脚が二本あるし、内臓もある。この目と舌と左腕以外のものを食べ尽くすまでにはかなりかかるだろうし、そこまでいけばオレも多少は死に近づけるかもしれない。少し乾いている腕の切り口を食いちぎってくちゃくちゃ噛み、それを角都に食わせながら、オレはオレに特殊な体を与えたもうた神に感謝の祈りを捧げた。これほどの熱意をこめて祈ったことはかつてなかったし、これからもないに違いない。角都に食わせて二人で生き延びるか、角都に食われ尽くされて二人で死ぬか。今思えばバカな話だが、あの時のオレには、そのどちらに転んでも違いがないような気がしていたのである。