ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

pH(ss)



飛段が追い詰めた獲物をなぶってゲハハーと大口開けて笑っていたとき、対戦相手が片手を大きく振って粉末をばらまいた。それは強酸入りのマイクロカプセルだ、中和剤が欲しかったら術を解け、でなけりゃ貴様の内臓はぼろぼろに焼けただれ。飛段の鎌が勢いよく振り下ろされたので、言葉を終えることなく首は飛んでいき、後には首なしの死体と怪訝そうな顔の飛段と眉根を寄せた角都が残された。キョウサンてなんだァ角都。目をこすりつつ尋ねた飛段はすぐに、イテッ、テテテ、と間抜けな声を上げる。角都は転がっている死体を調べたが、特に中和剤めいたものを見つけられない。おい飛段、どこが痛む。なんかあちこち痛ぇ、目ェも鼻も口も喉もえらくジリジリしやがるぜ。角都は少し考え、片手で両眼を覆ってしゃがむ相棒に説明をする。お前が吸いこんだのは皮膚や肉を焼く薬だろう、水で薄めても効果はなくなるまい、アルカリ溶液なら中和できるがどうする、試すか。テメーそのなんとか溶液持ってんのかよ。俺もお前も持っている、問題はお前がそれを使いたいかどうかだな。…さて、角都に溶液の正体を聞いた飛段はいっそとことん焼けただれてから回復しようかとも思ったが、体内がじりじり焼けていく苦痛は忍び難く、結局は溶液を使うことにした。それなりに相棒に気を使った角都はまず飛段が液を出すのを手伝ってやり、これ以上は出ない、と飛段が泣きを入れてから自分の液を出した。顔面を白濁で汚した飛段はそれを直接口に受けて飲みくだし、相棒に言われるままに出口を強く吸い続けた。…後に、件の体液はほぼ中性だと知った角都はひそかにうろたえたが相棒には秘密にしておいた。あのときアレで片がついたのは飛段の回復力が並はずれていたからか、それともプラシーボ効果のせいだったのかもしれない。いずれにせよ絶対的な信頼を受けている身としては、真実を枉げても威厳を保たなければならないこともあるのである。