ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

Viva la vie!2(ss)



始末した目標の持ち物の中に、非合法物らしき白い粉末があった。少し舐めてみた角都はそれが麻薬であると知り、それなりの量がある粉末を持っていくことにした。金になると判断したからである。問題は道中の関門だ。角都は店で買い求めた安い避妊具に粉末を詰めて口を縛り、それを相棒に運んでもらうことにした。当然飛段は拒否した。オイオイそんな気色わりーもんごめんだぜ、金が欲しいのはテメーだろ、テメーのケツに入れて運べよ。好きなものを食わせてやるとか宿に泊まってもいいとか、果ては一晩優しくしてやるからとか、角都はずいぶん説得に努めたのだが成功せず、しかたがないのでその場で相棒を縊り殺し、当初の予定通りの場所へ細長い腸詰状の避妊具を詰め込んだのだった。相棒の死体を国元へ運ぶと主張した角都は審問を受けながらも無事に関門を通過し、そうなると現金なもので一刻も早く相棒に回復してもらいたくなった。自力歩行を面倒がって死んだふりをしているのかもしれないと、わざとあたりにぶつけたり地面に落としたりしてみたが、意に反して相棒はいつまでも死体然としている。不審に思った角都は相棒の体を連れ込み宿に持ち込み、検分する。先ほど自分が握りつぶした喉の骨を接ぎ直し、胸を押して口から息を吹き込んでみても飛段は蘇生せず、冷たい体は蝋のように白いままで、角都は不安が胸の中に湧いてくるのを覚える。飛段の不死は己のものと異なり絶対的なはずだ、今まで何をしても生き返らないことなどなかった、何が悪いのだろう、最近飛段は儀式とやらをしていただろうか、あれをやらないと奴は不死ではなくなるのだったような気がする、もしかして自分は悪いタイミングで相棒を手にかけたのかもしれない、常々相棒を殺してやると言っていたのだからこれは裏切りではないし他の仲間も「また殺したか」と思うだけだろう、だから対外的には問題はない、あるとすれば、これから飛段なしで生きていかなければならない角都一人の問題だ。冷徹な事実を突きつけられた角都は落ち着きを失い、部屋の鍵を失くした者が同じ場所を何度も探すように飛段の呼吸と心音を繰り返し確かめ、そうするうちに夜を迎えた。休憩から宿泊へと料金体系が変わることを告げられても角都は部屋を出ていこうとはせず、相棒の手足をこすって冷えた肌を温めようとした。風呂にも入れてみた。焦燥に満ちた長い長い夜が明けたが飛段はまだ生き返らず、角都は相棒が本当に死んでしまったのだと認めざるを得ない。死体を持って換金所へ行けば多額の賞金が手に入るだろうが、使えばなくなってしまう金と相棒の体を交換することはできそうもなく、角都は横たわる死体に服を着せて鎌も背負わせ、髪を撫でつける。これは自分がおぶって行こう、飛段のことだから死体も傷まないかもしれず、そうすればずっと共にいることができる、もし腐って始末に困ったら焼くか埋めるかするとしよう、そのとき自分が生きることに疲れていたら共に焼かれ埋まればよいのだ。利己的かつ感傷的な狂気にふけっていた角都は、自分が絞めた相棒の首に巻きついているペンダントに目をとめ、身勝手な怒りを膨らませる。ジャシンの役立たずめ、宗教は阿片だと言った経済学者がいたが、飛段が生き返らないのならジャシン教など毒にも薬にもならないただのカスだ。怒りにまかせてペンダントを引きちぎろうとした角都は、ふと、ことの発端を―自分に殺された男が持っていた粉末を相棒の体内に収めたことを―思い出す。整えたばかりの相棒の衣類を急ぎ引き下ろし、その場を探る角都の指が、破れて内容物が半減しているゴムの袋を引っぱり出す。希望とパニックは揃ってやってくるものだ。半信半疑の角都の手は震えだし、やっと飛段の脈を探り当ててもそれを測り続けることができない。やがて、ウェー、と不快な声を出す飛段を角都はしっかりと抱きしめ、手の震えを無理やり押さえつける。服も腕も臭い反吐にまみれるがその温かさが今の角都には心地よい。体や服は洗えばいい。汚れた布団は弁償すればいい。金はまた稼げばいい。必要最低限の要件さえ満たされれば、生きることはなんとすばらしいのだろう。